星の器 | ナノ


▽ 4話

私は何度も同じ一生を繰り返した。
死んで、生まれ変わり、死んで、また生まれ変わる。何度も何度も繰り返した。

それは呪いのようだった。何度も繰り返す一生。
そのたびに約束を結ぶ。
しかしなぜか希望を失わなかった。私が愚かだからかもしれない。それでもまたいつか逢う約束に、私は何度も希望を持った。


そして、本当に奇跡がおきたのだ。
私のループした線が重なっていった。ものすごく薄い鉛筆の線をイメージしてほしい。それが幾重にもなって、やがて人類史にくっきりと私の一生が描かれた。
その線を奇跡的に誰かがたぐりよせ、私はついにループから抜け出す時を迎えた。



私の体をかたちづくるもの。
私の魂をかたちづくるもの。

すべてを再定義し、私を呼ぶ。

こんな風に私を呼ぶのは誰だろう。
……ああ。
あの人で、あってほしい。
このループから抜け出したら、もうあの人に会えなくなってしまうから。


こんな時まで私は約束が果たせなくなることを恐れる。
魂が舞い上がり、引き寄せられる。






詠唱が終わり、人型に光があつまっていく。
英霊が座へ帰るときを逆再生しているかのようだ。見守っていた人々は期待に目を輝かせた。光が収まり、人型に……横たわる女性に、静かな呼吸が生まれる。うっすらと目がひらく。
召喚者であるキャスターのギルガメッシュは彼女のそばに行き、そっと瞳を覗きこんだ。
「目覚めよ、名前」
その呼びかけに、くちびるが動く。
「……ぎ、る…?」
「「名前!」」
目の前にいる人以外にも名前を呼ばれ、周りを見て彼女はぎこちなく微笑む。
「ヘンな、夢…ギルが3人いるみたいに見える…」
「“夢”じゃないさ。本当に3人分の霊器があるからね」
後ろで固唾を飲んで見守っていたダ・ヴィンチは、そっと彼女に声をかけた。
「…ようこそ、名前くん。そして、おかえりなさい。」





英霊の座にない人物の召喚。
信じられない奇跡を目の前に、ダ・ヴィンチは興奮を隠せないまま彼女のバイタルチェックを行った。奇跡をうつした女性は、手を動かし、体を起こして数分もせずに新しい肉体に馴染んだ。意識もきちんとあるようで、受け答えも正確だった。

「じゃあ、君は間違いなくカルデアのマスター候補だったんだね?」
「はい、実験に参加した記憶があります。」
「そうか。…あのときは、本当にごめん。想定外のことばかりで、君がレイシフトしたことに気づかなかった」
「いいえ、もう終わったことですから。」
頭を下げるダ・ヴィンチを気遣うほどの落ち着きをみせた。
「…正直、なにもかも驚くことばかりで整理できていないんです。こうやって話せているだけで十分ではないでしょうか。」

穏やかに言う。たしかに謝られても仕方ないのかもしれない。しかし自分の状況を差し置いて他者を気遣えるのは、多くの経験をしてきたからこそだとダ・ヴィンチは思った。
「…君は、多くのものを得る旅ができたんだね。」
「はい。」





バイタルチェックが終わり、男性陣の待つ部屋にダ・ヴィンチが戻ってきた。後ろには自力で歩く名前。3人とも食い入るように見つめた。
「私も驚いたよ。自力で動けるし、会話もできる。ほとんど英霊並みの召喚ができたといっていい。大成功だ。」
動く彼女をギルガメッシュは信じられないものを見るように、だが嬉しそうに見る。
しかし部屋に入ってきた時からダ・ヴィンチは表情が暗かった。ちらりと横を見て、目が合うと名前は頷いた。
「すでに名前くんには話したけど、君たちに覚悟して聞いて欲しいことがある。」
ダ・ヴィンチは一呼吸置いてから言った。
「今回は本当に奇跡が重なって召喚ができた。魂の再構築は完全にできたと言っていい。でも、肉体は錬金術で作った代替えのため無理が生じている。
 この奇跡は彼女の肉体が崩れるか、魂が体から抜け出てしまえば終わる。」

その言葉に全員の目が名前に注がれた。本人は黙ったままだ。
「そんな……」
藤丸は驚いて、キャスターのギルガメッシュを見つめた。召喚者ならどの程度なのか分かる。彼は「そのようだな」とさらりと返した。
「体と魂の定着が脆い。10日と保たないだろう」
それが決定打となった。
しかし彼らの物憂げな表情を見て、ずっと黙っていた名前は静かに口を開いた。
「…そう言わないでください。ここに呼ばれたことが奇跡なんです。貴方達が私を呼ぶために努力してくれたのだと思うと、何も言うことはありません。」
奇跡を重ねて来た女性にとってそれは悲しみではなかった。
「まずは、呼んでくれて有難うございます。」

こう言って、その場でお辞儀をする。
奇跡のわずかな代償に過ぎなかった。







しばらくして、ダ・ヴィンチが「そろそろ検査に戻ろう」と言う。
「名前くん、彼に何か言っておくことはあるかい?明日ゆっくり話せばいいけれど。」
すると、名前はずっと気になっていた質問をした。
「あのう、こんなことを聞いて申し訳ないのですけど…」
「どうぞ?」
キャスターの後ろにいる2人を申し訳なさそうな顔で見る。
「私を呼んでくれたのがギルだということは分かります。でも、他のお2人はどんな関係なんでしょう。そっくりで戸惑っているんですが。」
彼女の言葉で、張り詰めていた空気に動揺が走る。この状況が当たり前になって説明していなかったことに誰も気づかなかった。
「…どれも、本当のギルガメッシュ王だよ。今のカルデアはこんなことが当たり前なのさ。」
目覚めたとき言わなかったけ?とダ・ヴィンチ。
その言葉に、平静を保っていた名前は目を見開いた。
「え…ええっ?」
「君を呼んだのがキャスターのギルガメッシュ。金ピカの青年がアーチャーのギルガメッシュ。幼い少年が同じくアーチャーのギルガメッシュだ。」
「おなじ、ギル…」
名前は戸惑っていた。数千年ぶりに自分が呼ばれた奇跡よりも、3人の同一人物が目の前にいることに全く理解ができていないらしい。
「ああ。この3人が協力して召喚を成功させたんだ。詳しくは本人たちと話せばわかるだろう。」
そういえば、とダ・ヴィンチは3人のギルガメッシュに話を振る。
「君たちは明日からどうするんだい?
 別々で彼女と過ごすか、それとも4人で一緒に過ごすのかな?」

ダ・ヴィンチからの提案に、子ギルが真っ先に言った。
「僕は別々がいいです。」
名前が見ている前で、弓ギルと術ギルも頷く。

「ええっ…と…」

名前は戸惑ったまま、承諾するしかなかった。




<つづく>


型月のメタ的設定。
術ギル、弓ギル、子ギル、こちらのほうが理解に苦しむ主人公…。
次話からそれぞれ分かれます。


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