星の器 | ナノ


▽ 1話

『星を抱(いだ)く人』

南極に秘匿されたある施設で、偉大なプロジェクトが終わりを迎えていた。2017年の人類滅亡を予見し、人類史を救うために戦ったあまたの英霊たち。特異点の消失によって人類の危機は去り、英霊達も一騎、また一騎と消えていく。
カルデアスタッフと藤丸たちは彼らの協力に報いるため、出来る範囲で彼らの願いを聞くことにした。
マスター藤丸は覚悟を決めて、ある英霊のところへおもむく。

「ギルガメッシュ王、これまで戦いに協力していただき大変有難うございました」
「よい。そなた達こそ雑種の身で善処したな。」

キャスターのギルガメッシュが藤丸に顔をあげる許可を与える。第七特異点のあとカルデアにやってきた王様は、戦いだけでなくカルデアの運営にも助力してくれた。初めてきた時は「無駄が多い」と呆れられたっけ。藤丸は懐かしくなる。
「私たちにできる範囲ですが、王様の願いを叶えさせてください。」
「連絡にあったアレか。小間使いの身で大仰なことを。だがその心がけは褒めてやろう。」
王様の機嫌は良かった。
そうはいっても、藤丸には彼がどんなものを望むか検討がつかなかった。彼なら今のカルデアの限界を知っているだろし、品物で王の財宝を超えるものはない。青いセイバーの貞操なんて求められたらどうしよう。かくなる上は、瞬殺覚悟で自分の身を差し出すしかない。
「…望むものがあると言えばある。
お前達に少し協力してもらうかもしれないが、ほとんどはおのれの力で可能であろう。しかし英霊の身として、これまでは個人的な願いにリソースを割くわけにいかなかった。」
「そ、そうなんですか…?」
ある意味で想像を超える、控えめな言葉にびっくりした。この王が遠慮をしていたのだろうか。判断基準がまだ分からない。
それとも、よほど個人的な願いなのだろうか。

「我が望むことは……ある人物との約束を守ることだ。」



「ふーん、それで『ハイ。』って受け入れてきちゃったわけか」
ダ・ヴィンチは360度に回転する椅子に座り、片足を組んで優雅にコーヒーを飲んでいた。藤丸が王から託された願いを聞いたところである。
「はい…あんなふうに王様からお願いされたのは初めてだったので…」
「イヤイヤ、これってかなりの難問だぜ。英霊の座にいない人物を召喚するなんて。」
ダ・ヴィンチが解説する。
「君たちがいつも利用している英霊召喚システムだけど、偶然の奇跡が上手い具合に重なって成功しているんだ。つまり少しでも条件を満たさないと成功しない。召喚にはいくつかの条件がある。
 ひとつ、人類史に記録された英霊であること。ふたつ、触媒など縁があること。みっつ、呼び出される目的があること。」
 指を折りながらわかりやすく説明を続ける。
「まず、その人物は人類史に記録されていない。ふたつ、ギルガメッシュ王との縁…うーんサーヴァントが縁になるかは微妙だね。みっつ、その人物がここに来る目的があるのかってこと。」
 藤丸は困ったなあ、という顔をしながら、今の条件を当てはめてみる。
「1つ目は無いし、2つ目の縁になる物も王の財宝にないそうです。
 3つ目は、生前本人と『いつかまた会う』約束をしたとおっしゃいました。」
 眉を潜めていたダ・ヴィンチだが、最後の一言にやたらと反応した。
「『いつかまた会う』約束をした人?それって、ギルガメッシュ王にとってどんな人なんだろう!」
「あ、そこははぐらかされちゃいました。」

ははは、と藤丸は笑う。
ダ・ヴィンチは「ふうん」と意味深に微笑んだ。

「…意外とロマンチックなところもあるんだねえ。それなら喜んで無理難題に協力しようじゃないか!」



かくして、英霊ギルガメッシュの願いを叶える『幕間の物語』が始まったのである。




<新章開始>

新章『星を抱(いだ)く人』が始まりました。
期待に添えるお話になるか分かりませんが、楽しんでいただけると幸いです。



prev | list | next


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -