▽ <7章>

<7章>

「何を見た!」
男たちに両腕をつかまれ、部屋の外に引きずり出される。「何を探していたんだ!」
「な…何も。部屋を間違えて入っただけです」
「うそをつけ!カバンの中をみていたじゃないか!」
頬に鋭い痛みが走った。怖くて目を開けず、震えることしかできない。
「ヤン、この娘危険だぞ。処分してしまうか?」
こめかみに冷たい鉄の塊を押し付けられる。「…下手に騒ぎになっては面倒だ。静かな場所で尋問した後、処分しよう」
目を開けると、大柄な男が私を大人しくさせるために握りこぶしを振りかぶった。このままではまずい。令呪を使おうとした瞬間、

「――そこまでにしてくれ!」
エミヤだった。
「残念だが、その娘は何の関係もない。お前たちが恐れているのは、自分たちの正体がバレることだろう?なあ、レジスタンスの諸君」

男たちが戦闘態勢をとるのに数秒もかからなかった。
「…お前たちは何者だ。ナチの密偵か」
「いいや。私たちも別の事情があって、この帝国を滅ぼさんとしているものだ。君たちと利害は一致していると思うがね」
エミヤはナイフを構え、私を返すように指示した。
「言い分を聞かないなら騒ぎ立ててもいいぞ。もっとも戦うならそれでいいが!」
エレナさんも後ろに構えていた。男たちは動揺し、リーダー格の男性を見る。男は私のこめかみに当てられていた銃を下ろさせた。
「……わかった。そちらが黙っていてくれるなら、俺たちも手を出さない。しかしお前たちの気が変わって密告する可能性もある。俺たちがこの街から姿を消すまで、その娘を拘束させてもらうぞ」
そんな、と一歩前に出ようとしたエレナさんをエミヤが静止する。
「いいだろう。だが、私からも交換条件がある。
 我々は、情報が欲しいのだ。君たちが知っているこの国の状況を教えてくれないだろうか」
エミヤは男たちにこう言って、私の目をまっすぐ見た。
目に迷いはない。マスターの危機にも動じないエミヤには、これが正しい行動だという自信がある。必ず危ないときには救い出してくれる。私もエミヤを信じ、頷いた。

「はっ、娘の貞操が危ないのに、娘より情報をくれなんてロクな親じゃないぜ」
男が返してやれと言い、押し出された私はエレナさんにぎゅっと抱きとめられた。
「…いいぜ、お前たちの話を聞かせてもらおうじゃないか。その話が信用できたら、こっちの情報もわけてやろう」


私たちは彼らに話をした。
自分たちが他の世界からやってきた魔術師であること(身元を証明するものがない時点で、嘘をついても仕方がないと考えた)。
正史では大戦でドイツ帝国が負け、ポーランドは独立していること。

彼らは私たちを心から信用していなかったが、ポーランドが独立していることを知ってざわめいた。
あとで知った話だが、正史でも大戦中にドイツやソ連に占領されたポーランドは独立を目指し、組織的なレジスタンス活動を行っていた。大戦が起きてから20年――彼らはずっと活動をしてきたということか。

「ほんとうに?お前たちの世界では、ポーランドは独立したのか?」
一人の男がぽつりと言った。もう一度そう言って欲しい、というように。
「ああ。正史であれば、首都ワルシャワは市民たちの努力で大戦前の姿に復興し、世界中から旅行客が訪れる美しい街だ。私も旅をしたことがある」
「大戦前の美しい街…。」
完全に男たちの心は揺り動かされていた。
エミヤはぐっと乗り出して男たちに言った。「――ここからが重要な話だ。未来から来た我々は世界の異変を監視する組織に所属している。この世界では第二次世界大戦末期に異常な力が加わり、ドイツが勝利した。
 その異常な力を破壊しドイツが降伏すれば、正史に戻る。

…いや。嘘だ。表情一つ変えずに言ったエミヤが恐ろしくなる。
私たちが行うことは、この世界の特異点を解消し、私たちの世界を潰す可能性を持った世界を消すということ。つまり、この人たちもーー…。

「俺たちは違う歴史の世界から来たお前たちに、この世界の情報を与え、異常な力を破壊する手伝いをする、ということか」
リーダー格の男性が冷静な口調で言った。「…だが一つ聞かせてくれ。正史に戻るということは、正史に存在していない若い連中は、消える、ということか?」

私の中でめまいが起きていた。エレナさんが気持ち悪そうな私に気づいて、少しだけ頑張って、と囁く。エミヤは私の変化に気づいていない。
「…ああ、その可能性はある。君たちが20年の間に得たものは、正史でも得られたかは分からない。だが、考えてくれ。君たちは20年間に失ったものの方が多いはずだ」
エミヤの言葉に、そっと胸元をさぐって家族の写真を見たものがいた。何かを思い出すように無言でうつむいたものがいた。
リーダーの男性が言う。
「…そうだ。この20年の間に家族を持ったもの、生まれた者もいる。
だが、俺たちは多くのものを奪われた。そして、これからもっともっと多くのものを奪われる…!」
男はエミヤを見た。
「もともと命は祖国のために捧げる覚悟だ。お前の言葉で揺いだりはしない。
 お前たちの目的はまだ理解できないし、信用もしない。だが、協力をすることは惜しまない。そうすれば、俺たちにも力を貸してくれるか?」
「よろこんで」
差し出された手に対し、エミヤは微笑んで握り返した。

「では、今度は20年の間に世界でどんなことがあったか話そう」

男の話に、私は自分の決心をさらに揺るがされることになったーー。
「ドイツはヨーロッパの連合国に勝利したあと、日本に援軍を送り、アメリカと戦った。そして、アメリカを倒した」
 待って、と私は口を挟んだ。異常が起きたのは1945年4月。そのころであれば、まだ…。
「日本に原爆は投下されてないの?」
「ゲンバク?そんなものは知らないぞ。アメリカからの新型爆弾なら、ドイツに投下されて未遂で終わったが。」




prev / next

[ back to title ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -