▽ <5章>

<5章>

次の日の朝、アレクに「ここを出て街を探す」と言ったら猛反対された。
「いやだ!エミヤたちが行くなら僕もついていく。だって、エミヤたちといた方が騎士団に入れるかもしれないんだから…!」

説得しても頑として折れない彼に、エミヤも私もほとほと疲れた。
「私たちが行くところはもっと危険かもしれないよ。アレクを守ってあげれないかも」
「大丈夫!僕だって魔犬を追い払ったことがあるし、野宿だって慣れてるし、ご飯が数日なくても大丈夫だもん」
「いや、でもね…」
その様子を見ていたエレナさんはしばらく黙っていたが、急に「いいわよ」と言った。
「連れて行きましょう。今は安全かもしれないけど、魔犬が霊脈に誘われて来る可能性もある。アレクは、ずっと一人でいるべきじゃないわ。私たちとずっと一緒はむりだけど、せめて守ってくれる人がいる場所に連れて行かないと」
「僕はずっとついて行きたいけど…」
とりあえず連れて行って貰えるかも、とアレクは期待するようにエミヤの顔を見た。
「…エレナがそう言うなら仕方がない。だがアレク、君を保護してくれる人を見つけたら、その人の所に行きなさい。きっと魔術の素養を持っている人が街にはいるだろう」
「うん…」
アレクのしゅん、とした姿を見て胸が痛む。
でも、最終的に私たちはこの世界の変異と戦わなければならない。そして、この特異点を消すのだ…。


明るいうちに安全な場所を見つけるため、すぐ移動することにした。
でも、また魔犬と出会ったときどうやって戦おう。アレクがアドバイスをくれた。
「ここの石を持っていくといいよ。お父さんも定期的に来て、石を補充してたんだ。しばらくはこれで魔術が使えるよ」
「なるほど。では集められるだけ持って、落ち着いた所で弓矢を作ろう。アレク、君も手伝ってくれるかい?」
「うん!」

エレナさんにできるだけ魔力を多く含んでいる石を探してもらい、袋に詰めて背負った。
石を拾っている間、アレクから情報を聞き出す。
「ねえアレク、お父さんといつもこうやって石を拾いに来てたの?」
「そうだよ。立香たちは使わないの?」
「うーん、私はあんまり魔術のことは教わってないから。魔術の話って、ほかにどんなのを聞いたことがあるの?」
「この石のことだと、お父さんは若い頃、石を使わなくても魔術を使えたんだって。僕の一族もみんな石なしでできたらしい。あんまり使う機会はなかったけどさ。
 歳をとったら、魔術が弱くなるなんてことあるのかな?でも僕は小さい頃から石が必要だったし…」
「どうなんだろうね… お父さん以外で魔術師に会ったことは?」
「ないよ。村にはお父さん以外、魔術を使える人はいなかったから。
村と周辺の森や洞窟より遠くに行ったことがないんだ。ねえ、立香が住んでたのはどんな所なの?」
「ええと、たぶんアレクが住んでた村より大きいと思うよ。」
当たり障りのないことを言おうとして、エミヤと目があった。でも、全く何も言わないのも怪しい。
「私も他の場所を詳しく知らないけど、私たちの周りには助けてくれる人がいっぱいいたよーー」

…カルデア。来て数年しか経っていないのに、あまりに来てからの記憶が強すぎて、ずっとそこにいた気がする。
でも、遠くて平和な日本を思いだす。あんな平和な場所は、私が行ったどこの世界にも無かった。もちろん欠点だっていっぱいあった。
でも、そんな場所を知ってるから、世界を私は取り戻したいんだ……。

「ごめん。ちょっと思い出に浸っちゃった」
「ううん。立香が羨ましいよ。僕も同じ力を持った人にたくさん会って、自分の力で活躍したいんだ。騎士団に入れば、きっとーー」


それから洞窟を出て、霊脈を確認しながら数日間歩いた。
魔犬を探知しながら進んだので、敵を避けて進むことができた。途中で石をいくつも捨て、使えそうな石も拾いながら進んだ。保存食もあったが、エミヤが弓矢を使って調達することもあった。
何度か村や小さな街を通過したが、全く新しいサーヴァントに出会えない。ひとまず情報収拾をするため、大きな街を目指した。

そして何度目かの朝…
崩れた建物の瓦礫で囲まれた街に辿り着いた。
「着いたぞ…ワルシャワだ」





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