■ ■ ■


■キャメロットに行くすこし前のお話■

 ガウェインが扉をノックして中に入ると、いつもなら立ち上がって迎えてくれる少女が出てこなかった。不思議に思って歩み寄ると、勉強をしている途中だったのか、椅子に座ったまま膝の上に本をのせて眠っている。
 安らかな寝顔だった。柔らかな胸の線が上下して、かぼそい手のひらが上を向いている。まるい頬と、思わず口づけしたくなるような小さい唇。
 来月にはキャメロットの宮廷へ行く。ナマエがじぶんから行くと言い出したが、彼女の緊張ぶりは可哀想なほどだった。ここのところ、礼儀作法の本を繰り返し読んだり、言葉づかいを練習したり、起きている間はずっと忙しくしていた。
 あまり精を出しすぎてはよくないと言ったら、「もう少しだけ」と聞かなかった。意外と負けず嫌いなのだな。
 彼女の新しい一面も見えたりもした。
「……、……」
 マントを外してかけてやる。起こさないように、あくまでそっと。
 あなたには笑顔でいてほしい。でも頑張っている姿も、くじけそうな姿も、全部愛おしく思っている。
 ガウェインはナマエの額にキスをした──……ここで止められている自分は偉いな、と思いながら。



■キャメロットでのあるお話■

 仕事が忙しいといってガウェインは、夕食のとき少し疲れた顔をしていた。ナマエは何かしてあげたかったが喜ばせ方が分からなくて、そっと彼の袖をひく。
「ナマエ、どうかしましたか?」
「あの、ガウェインさま……を」
「はい?」
「喜ばせて差し上げたいのですけれど……どうすれば良いのか分からなくて」

 ナマエの上目遣いにガウェインの鼓動は不覚をとった。ほころんだ口元を手で隠しながら、「では」と彼女の手を引き、さきに暖炉前の椅子に座る。

「私の膝の上に座ってください」
「は、はい……」
 ナマエが上に座るとガウェインは後ろから手をとり、たがいの小指を絡ませあった。
「このまま他愛のない話をしましょう。あなたと話すことが、私にとって最大の喜びになります」

 顔を赤くしながらもナマエは小声で話し、ガウェインは低い声で言葉を返した。そうやってたがいの熱と吐息を感じた。
 その夜は唇をかわしたり指以外に触れたりしなかったが、ガウェインの目は潤み、満ち足りた気持ちになった。そして存分に明日への活力を得ることができた。


<おわり>




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -