■ ■ ■


 英雄とは、生まれたときから死ぬときまで英雄なのか。
 然り。英雄とは生き様であり、英雄らしく生きる運命を与えられている。
 だが、親しいものにだけ見せる顔があってもいいだろう。


 クーフーリンの一生で親友と呼べる人物のひとりがロイグである。ロイグは成長するとクーフーリンの戦車を巧みに操作した。
 そのロイグの妹ナマエは、ちいさなころから兄とクーフーリンのあとを追いかけて成長した。

 自分の胸にも届かない少女が、細っこい腕でけんめいに槍をさばこうとする姿をみて、おもわず「弓でもいいんじゃないか」とクーフーリンは言った。
「だめ。だって、一流の戦士は弓じゃなく槍で戦っているもの。それに槍じゃなきゃ兄さまたちと……」
 そのあとナマエは口をもごもごさせ、恥ずかしがってうつむいてしまう。なんとなく自分が悪いような気がして、クーフーリンは「まあ才能がないわけじゃないんだがな」と言った。
「ほんとう!?」
 きらきらとした感情を向けられて、これもこれで悪く無いな、とクーフーリンは笑みを浮かべた。
 それを目ざとく見ていた親友に、おい、とクーフーリンは声をかけられる。

「おまえ、いくら女好きとはいえ、あんな年端のない幼女まで好みの範囲なのか」
「ばか言うな。おまえの妹なんぞ、大きくなったところで、こんな兄がいては願い下げだ」
「言ったな、クーフーリン!」

 えいや、と槍を手に勇んで踏み込んできた親友にこちらも槍で応戦する。軽くいなし、笑いながら槍技を繰り出しあう遊びに、二人は夢中になってしまう。
 横で、「せっかく今はわたしの番だったのに……兄さまの大ばか」とつぶやいている幼い少女に、気づかないまま。





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