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「で、なんで、こんなトコにいるんだ?
つか、何処だよ、ココ?」

「現在地は、私にも分かりかねますが、恐らく、バチカルから遠く離れてしまっていますかと。
ルーク様と私が、この場所にいる理由は、ルーク様と私の第七音素が共鳴し、超振動を起こしてしまったからだと存じます」

「ちょお…しんどう?
何だ、それ?」

ルーク様は、恐らく譜術の勉強はされておられないのね。

じゃあ、どう説明すれば良いかしら…。

「簡単に申し上げれば、物質を分解したり、再構築したり出来る現象のことです。
同じ振動数の音素が干渉し合うことで、発生します」

「ん?じゃあ、オレとお前は、いっぺんバチカルで分解されて、ココで再構築されたってことか?」

「はい、そうなります」

「ふーん…」

ルーク様は納得されたようで、辺りを見渡された。



「ルーク様、バチカルまでの道中、畏れながら護衛させて頂いてよろしいでしょうか?
このような犯罪者と、道を共にされるのは不愉快かと存じますが、他に御身をお護り出来る者が、おりませんので、どうかご容赦ください」

キョロキョロされていたルーク様の視線が落ち着いたので、ルーク様の足元に跪き、許可を頂く。

「えーと、お前がバチカルまで、オレを守るっつーことだよな?
おぅ、頼むぜ!」

ルーク様は、少し考えてから、頷いた。

ルーク様にはちょっと、複雑な言葉遣いだったらしい。

けれど、しっかり考えて返事して下さる所が、とても好感が持てる。

「ルーク様、ひとまずこの渓谷を出ることに致しませんか?
幸い、月が明るいので足下は見えますし、何より現在地が分からないのでは、帰れませんので」

「渓谷を出る?おま…ティア、は、道分かんのか?
あ、立って良いぞ?」

ぎこちなく名を読んで下さるその様子の、愛らしいこと!

立ち上がり、内心悶えながら、冷静に言葉を紡ぐ。

「あちらに海が見えます。
また、川の流れる音も聞こえますので、川沿いに行きますと、海岸に出られます。
海岸沿いの方が、街道を見付けやすいかと存じます」

「海?あれが…?」

私が指した方を見て、ルーク様が呆然と呟かれる。

屋敷に軟禁されていたのだとしても、バチカルは港町。
海は、珍しくないと思うのだけれど…。

けれど、夜の海に見惚れていらっしゃるルーク様の邪魔をするのも憚られて、ルーク様が満足されるまで、私は待った。

しばらくしてから、ルーク様は、ハッとこちらを振り返られた。

「あ、わ、悪ぃ…その、オレ…」

「はい」

「あー…記憶障害があってな。
10歳より前のこと、全然覚えてなくて。んで、屋敷に閉じ込められてたからよ……その、海、初めて見たんだ…」

ルーク様は、何だかばつが悪そうな表情で頭を掻きながら、そう仰られた。

記憶障害のことは、情報には無かったけれど……そうよね、ファブレ公爵はキムラスカの重鎮なのだから、跡取り息子の弱味など、そう易々と流す訳もないわよね。

だから、私は首を横に振った。

「ルーク様がお悪いことなど、一つも御座いません。
海を見たことがないのなら、今、ご覧になられましたし、バチカルへの道中にも、また目にする機会も御座います。
これから、色々な物を目にすれば良いだけですから、お気に病まれないで下さい」

「う…あ…、そ、そうか…?」

恥ずかしそうに頷かれるルーク様は、それはもう、可愛らしいかったわ!

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