3

「では、ルーク様」

「なぁ、ティア」

そろそろ出発しようと、ルーク様に声をお掛けしたら、ルーク様のお声も重なってしまった。

「……何でしょう、ルーク様」

「えっ、あっ、やっ、その…ソレ、止めねぇ?」

バツが悪そうに、ルーク様は視線を泳がせた。

「ソレ?とは、何でしょう?」

「その話し方とか、様付けんのとか。何か、遠い感じがして、ヤなんだけど」

「ですが……」

敬語を使うなと仰られても、身分の差を考えると、ちょっと従いづらい。

「あーもーっ!ウゼーっつーの!
オレが止めろっつったら、止めろ!!良いな!?」

ルーク様は癇癪を起こして、怒鳴られたけれども。


――遠い感じ。


つまり、距離を置かれて寂しいと、そういうことかしら?

「分かったわ、ルーク。
敬語は使わない」

私がそう告げると、ルークはホッとしたように、少し目を細めた。

「でもね、公の場では敬語で話すから」

「えーと、王族は平民と気安く口をきいてはならない、だっけ」

恐らく家庭教師に教わったのだろう事を、ルークは思い出したらしい。

「えぇ、そうよ。
そして、その逆でもあるわ。
平民は、王族と気安く口をきいてはいけないものなの」

「ふーん…。分かった。
じゃ、他の奴がいない時は、普通に話せよ?」

「えぇ。バチカルまでよろしくね、ルーク」

「おぅ。んじゃ、行こうぜ」

ルークが足を進め、私はそれを慌てて追った。



「ねぇ、ルークは私の隣か、少し後ろを歩いて貰って良いかしら」

「あぁ?何で」

「魔物が出た時に、私がルークを守るためよ」

その時、草むらが大きく揺れた。

姿を現したのは、サイノッサス。

こちらを警戒しているようで、頻りに前足で地面を掻いている。

「ルーク、下がって!」

「え、あ、あぁ…」

ルークはふらふらと、二・三歩後退る。

その動きに、緊張感が切れたのか、サイノッサスが突進してくる。

それを迎え撃つ形で、私はナイフをサイノッサスの眉間に突き出した。

突進の勢いで、ナイフは深々と突き刺さり、サイノッサスは絶命した。

「し…、死んだ、のか?」

「えぇ、急所を一突きにされたのですもの、生きてはいないわ」

「そ、そうか…」

ルークは、少し青ざめているようだった。

「……怖かった?」

「……分かんね。でも、魔物も、戦闘も、初めて見た……」

「そう……」

ルークの手は、微かに震えていた。

「大丈夫よ、ルーク。
貴方は、私が必ず守るから」

ルークは、ハッと顔を上げた。

少し辛そうに歪められた表情。

「て、ティアだけが、戦うのか?」

「そうよ。だって、軍人だもの」

王族を、民間人を守るのは、当然のこと。

「でも、男は、女を守るもんだって聞いたぞ!?」

……誰から聞いたのだろう?

「いい?ルーク。
強い者が弱い者を守る、と言うことは分かるわね?」

「ったりめぇだろ」

「力が弱い男性もいるってことも、分かるわよね?」

「あぁ」

「でも、民間人より弱い軍人はいないの。
いいえ、いちゃいけないのよ。
これは、分かる?」

「……何となく」

ルークは曖昧に頷いた。

「そして、私は軍人で、ルークは民間人でしょう?
だから、私が貴方を守るのよ」

じっ、と考え込んだルークは、ややあってから、こくんと小さく頷いた。




サイノッサスとの戦闘の後、ルークは私の一歩後ろをとぼとぼと歩いていたけれど、
私が川を指し示すと、興味深そうな顔で、水面を覗き込んでいた。

「ルーク、疲れてない?」

人の手の入っていない道を歩いたことがないルークは、息を切らせながら、それでも「大丈夫」と強がってみせた。

道が広くなり、小さな広場のようになっている場所に出た。

「どうやら、出口のようね」

「うわぁっ!!お前ら、漆黒の翼か!?」

ルークを振り返っていた顔を戻すと、男性が一人、尻餅をついていた。

「……漆黒の翼?」

「盗賊団の名前よ。確か、男女三人組だったと思うわ」

ルークが首を傾げたので、そう答え、男性に声をかける。

「私たちは、漆黒の翼ではありません。実は道に迷ってしまって…」

困っているんです、と顔を伏せると、男性はようやく立ち上がった。

「そうなのか?
確かに一人足りないようだし…姉ちゃんは、神託の盾みたいだな。
俺は辻馬車の馭者をやってるんだ。良かったら、乗ってくかい?」

「あ、いえ…」

「馬車…?もう、歩かなくて良いのか?」

ルークが足を痛そうに撫でながら訊く。

ルークは、もう限界みたい…。

「馬車は、首都へは行きますか?」

「おう、行くぜ。乗るんなら、一人12000ガルドだ」

「高い……」

――このペンダントなら、足りるかしら…。

呟きが聞こえたのか、男性はルークを眺めながら言った。

「そうかい?そっちの坊主の服、随分良い仕立てじゃないか。
その金ボタン、二つで足りるだろう」

その余りにも失礼な発言に、私はくらりと目眩を感じたが、ブチッという音に、ルークを見た。

「ほらよ」

「ルーク!良いの!?」

「あぁ?ボタンくらい別に、どーでも良いだろ?」

あー、でも、服が止まんねぇや。

ブツブツと言いながら、ルークはさっさと馬車に乗り込んだ。

ルークに、他意は無いかもしれない。

けれど、ペンダントを手放さずに済んだことに、とてもホッとした。



(ありがとう、ルーク…)





*****あとがき

ティアの対応が柔らかいので、ルークの反発もそんなにない感じで。

次の章から、視点が変わります。




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