存在意義

その日の昼に、皆にルークがレプリカである可能性を説明した。

ルークには、先に詳しく教えていたので、特に取り乱したりなどはなかったが、他の者の反応は気になった。

導師イオンは、穏やかに微笑んで、少し目を伏せただけだった。その表情は、慈しみと……何かを孕んでいるようだった。

アニスは、導師守護役だ。
導師に何もなければ、特に大袈裟な反応はしない。
まぁ、少し驚いた様子だったが、共に行動していた者が、些か変わった生まれ方をしていると知った割りには、落ち着いていただろう。

この二人については、概ね予想通りだ。
だが、ティアと、特にガイの反応は、意外と言える。

ティアは、特に驚きも見せず、ただ頷いて、
「ルークがレプリカであったとしても、危険な場所に私が連れ出してしまったことに変わりないわ。
私は、ルークを守るから」
とルークに告げた。

更に意外だったのは、ガイだ。
ガイは、何かを考え込むような素振りを見せた後、吹っ切れたようにルークに笑って見せた。
「七年間、俺がずっと見てきたのは、お前だからな」


誰一人、ルークを偽物などと罵る者はいなかった。
そのことに安堵した私は、ルークがどう感じたかを気にすることを、忘れてしまっていた。

そのせいで、ルークは今、涙を流している。

独りで、ただ静かに、その翡翠の瞳からポロリ、ポロリと。

「……ルー、ク」
「ジェイド、オレ、」

言葉にならない、続きが聞こえた気がした。

悲痛な叫びのような、疑問符が。

「ルーク、疑わないで下さい」
「………え?」

きょとん、と潤んだ翡翠が瞬いて。
その拍子に、ポロリ、とまた雫が落ちた。

「貴方の存在意義を、誰が疑ったとしても、貴方は疑わないで下さい」
「……………」
「貴方がいなければ、この現在は有り得ないのですから。
それで、誰が不幸になっていても、少なくとも此処に一人、貴方がいるからこその現在を幸せに思う者がいますから」

綺麗な瞳に笑みを一つ、
濡れた唇にキスを一つ、贈って。

「貴方は、貴方の存在意義を、疑わないで下さい」
「…………うん」




何の為に生まれたのか。
何故、生きているのか。

答えなど出る筈もない問いを抱えて、蹲らないで欲しい。

貴方の存在する現在に、幸福を叫ぶ者がいるのだから。

その者こそが、貴方の生まれた意味で、生きる理由で構わないのだから。



そっと、ルークの涙を隠すように肩に両腕を回し、引き寄せる。
ルークは、また涙を溢したが、もう、独りではないから。

微笑って欲しい、と俯く緋色に、唇を落としたのだった。








*****アトガキ

キリバン9000を踏まれたやさい様!
お待たせしました!
シリアス系ジェイルク、になって、ますか…?

時間軸は、カイツールでアッシュに襲われた日の夜だと思われます。

やさい様、気に入らない場合は、書き直しも承りますので!
煮るなり焼くなり、ご自由に

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