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慣れない緊張を強いられた少年らのために、温かい紅茶が振る舞われ、ルークとイオンは、それをありがたく口にした。

「あったけー…」
「はい…。ホッとします」

と、ドアをノックし、ジェイドを呼ぶ声が聞こえた。

「やれやれ、忙しないですねぇ。
失礼してもよろしいですか?」
「はい」
「おぅ」

扉の外、敬礼した兵士が、キビキビとジェイドに報告する。

「ご報告致します!
人的被害状況は、軽微!
物的被害状況としては、右舷通路に亀裂が六ヶ所、上部架橋が三ヶ所崩れておりますが、何れも進行に問題はありません!」
「分かった。
しかし、この辺りはセントビナー駐留軍の区域だ。
報告に向かう」
「はっ!」

その兵士が再び敬礼して立ち去るのと入れ替わりに、別の兵士が走ってやってきた。

「大佐、よろしいでしょうか?」
「何だ」
「甲板に、上空から男が落ちてきました。
敵意はないようですが、帯刀しておりましたので、縄をかけて取調室へ連行しましたが、如何致しましょう」
「上空から、男?」

ジェイドは、はて、と眉を寄せる。

「タルタロスより高いところにいるなど、魔物くらいしか…。
その男、何か言っていたか?」
「はっ。どうやら、神託の盾から魔物を借り受けて、空を飛んでいたところ、その魔物に突然、振り落とされた、と」

ジェイドは、顎に手を当てて、考える表情になった。

「ふむ……。
その男は名乗ったか?」
「は。それが、その……」
「何だ」
「キムラスカ王国、ファブレ公爵家の使用人、ガイ・セシル、だと……」

その肩書きに、ジェイドは思わずルークを振り返った。

ルークもジェイドを見ていて、目が合ってしまった。

「……ジェイド?
どーしたんだ?」
「…………。
ルーク様。少々、お手を煩わせてよろしいでしょうか?」

一呼吸分考えて、ジェイドはルークに頭を下げた。

「あ?俺に出来ることなら、別に構わねぇけど」
「ありがとうございます。
では、こちらへ」

事情を一切説明しなかったジェイドに、イオンやティア、アニスが首を傾げながら、二人を送り出した。



*****

「ルーク。つかぬことを聞きますが」
「ぁん?」
「ガイ・セシルという男を、ご存知ですか?」

ルークは、ジェイドを見上げ、首を傾げた。

「ガイのこと、知ってんのか?」
「いえ。ルークは知ってるんですね?」
「おぅ。オレ付きの使用人だし」

ルークがそう言うと、ジェイドは再び考え込んだ。

そして、ルークを見た。

「今、この艦に、ファブレ公爵家使用人のガイ・セシルを名乗る男が、来ています」
「マジで!!」

ルークが嬉しそうな声を上げるのに対し、ジェイドは落ち着くよう言う。

「偽者の可能性もあります」
「にせもの!?」
「はい。貴方付きの、つまり貴方が信用している使用人のフリをして、貴方を害そうとする、危険人物かもしれません」
「ん、なワケ、ねーだろ」

ルークは、何とか笑い飛ばそうとするが、その笑みはぎこちない。

それに気付きながら、ジェイドはルークに言い聞かせる。

「あるのです。貴方は、公爵家嫡男にして、第三王位継承権を持つ、最も玉座に近い人なのですから」
「そんなん………」
「えぇ。貴方のせいじゃ、ありません。
ですが、関係ないのですよ」

その淡々とした声に、ルークは俯いた。

「ですから」
「……ぁ?」

ジェイドは、ルークの旋毛を見下ろしながら、続けた。

「私から離れないで下さい。
必ず、守りますから」

ジェイドのその言葉に、ルークは顔を上げ、微笑んだ。

「ん。ありがとな」
「いえ」

ジェイドも、それに薄く笑みを浮かべて答えた。



*****

「通しなさい。確認したいことがある」
「は」

ドアの前で、警護していた兵士が、ジェイドに敬礼し、ドアを開ける。

「失礼しますよ」
「大佐!」

取り調べていた兵士が立ち上がり、ジェイドに敬礼して、迎え入れた。

ジェイドは、部屋の奥側に座っている男を見る。

その後ろから、キョロキョロと室内を見回すルークに目を止めたらしい男は、瞠目した。

「ルーク!やー、探したんだぜ?」

男が立ち上がり、一歩近付いてこようとするのを、ジェイドは槍を突き付け、牽制する。

「ちょ、ジェイド!?」

ぐっ、とルークがジェイドの、槍を持たない左腕を引っ張る。
ジェイドは、男から意識を逸らさず、はい、と答えた。

「何してんだよ!?」
「不審人物がルーク様に接近することを、留めています」

その言葉に、ルークが反応する前に、ガイが声をあげた。

「不審人物って…!
俺は、キムラスカ王国、ファブレ公爵家使用人の、ガイ・セシルだ!不審なことなんか、何一つ無いだろう!?」
「ほぅ?」

ジェイドの声が、ひやりとした温度のものに変わる。

ルークがピクリと指を震わせて、そうっとジェイドの腕を放した。

ジェイドは、やや強引に、ルークを自身の背後に押しやり、ガイの前に立ちはだかる。

「あなたがファブレ公爵家の使用人?
信用出来ませんね、全く。
そもそも、ファブレ公爵家の使用人であるのなら、ルーク様は主である筈。
にも拘らず、ルーク様に礼を取るでも、遅参を詫びるでもなく、あまつさえルーク様を呼び捨てにするなど、言語道断。
そんな態度を見て、あなたの身分を信用するなど、出来るはずがありません」
「俺は………っ!」
「おやおや。その上、言い訳ですか?
情けない」
「………っ!」

ジェイドにやり込められて、虚しく口を開閉するしかない男は、助けを求めるようにジェイドの背後に視線を向ける。

しかし、ルークは完全にジェイドの背に隠れており、その視線は届かない。

男は、ジェイドに憎々しげな目を向けて、横に一歩ずれ、ルークに見える位置で跪く。

「………申し訳ありませんでした、ルーク様。
お探し申し上げました、ご無事で何よりです。
ルーク様のもとに馳せ参じること、遅くなりまして、誠に申し訳ありません」

深々と頭を垂れるガイを冷たく見遣り、ジェイドは槍を音素に還した。

ルークは少し困ったような視線で、ジェイドを見上げた。

「じ、ジェイド……」
「ルーク様。この男に許可を与えないと、いつまで経っても、この男は顔も上げられませんよ?」

その視線に、ジェイドは微笑みを返す。

ほ、と息を吐いたルークは、ガイを見た。

「別にもう、良いぜ?
あと、言葉遣いも、いつも通りで構わねぇし」

ガイは顔を上げて立ち上がり、だが…とジェイドを見た。

その様子に、またジェイドの声が冷たくなる。

「あなたが顔色を伺うべきはルーク様で、私ではないでしょう」
「あ、や。そうなんだが…」

男は、困惑げに後頭部に手をやった。




*****アトガキ

ガイの態度を、ちくちく苛めよう。の巻。

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