8
「さて。貴殿方のご用件を伺いましょうか?」
膝をついた、六神将・魔弾のリグレットに槍を突きつけ、ジェイドは冷めた視線を向けた。
――それにしても、とジェイドは思う。
六神将は、互いに協力する、ということが出来ないのか。
チームワークなぞ全く考えずに、てんでバラバラに突撃してくる。
他人事ながら、頭を抱えたくなるほど、そのワンマンプレイぶりは酷かった。
タルタロスの帆を縛るワイヤーで捕縛した、黒獅子ラルゴと妖獣のアリエッタを、ちらりと眺めて、思わず溜め息を吐いた。
リグレットは、槍の穂先など意に介さず、ぎりっとジェイドを睨んでいる。
「何のつもりだ、死霊使い!」
「それは、こちらの台詞です。何のつもりで、タルタロスを襲ったのですか。
貴殿方はそんなに、マルクトと事を構えたいんですか?」
ふん、とリグレットは嘲笑を浮かべた。
「ダアトとマルクトが事を構える?
そんなことは、預言には詠まれていない」
「しかし、そうでないとも詠まれていない。そうでしょう?」
ぐっ、と言葉に詰まったリグレットは、憎々しげにジェイドを睨む。
しかしジェイドは、飄々と肩を竦めるだけだ。
「そんなに私を睨んだって、何も変わりはしませんよ」
取り敢えず連行、とジェイドは兵士に指示を出した。
その時、頭上から、赤い髪を靡かせた人影が、勢いよく飛び降りてきた。
「そこまでにして貰おうか、死霊使い!」
振りかざし、振り下ろされる刃から逃れ、ジェイドはその人物を確認する。
(神託の盾の法衣、赤い髪――)
「鮮血のアッシュですね」
言いながらジェイドは、周囲の兵士に、アッシュを包囲するよう目で指示を出す。
「そこまでも何も、この艦はマルクトの物で、この場所もマルクト領ですよ?
この場合、襲撃してきたのが貴殿方なら、退くべきも貴殿方でしょうに」
「うるせぇっ!とっとと導師を返しやがれ!!」
「導師?返すとは?」
人の話をまるきり無視した返答に、ジェイドはやれやれと肩を竦めた。
「それではまるで、我々が導師を拐かしたかのようではないですか」
「事実そうだろうが」
「はい?」
はて、とジェイドは首を傾げた。
「初耳ですが」
「何だと!?モー………」
「アッシュ!」
何事かを言おうとしたアッシュを、リグレットが遮る。
リグレットを一瞥して舌打ちしたアッシュは、ピィッと口笛を吹いた。
上空によぎる、大きな影。
「っ!?」
ザッ、と間近で吹いた強風に、ジェイドは思わず、目を閉じ、顔を庇った。
巨体が傍を通りすぎる気配に、慌てて顔を上げると、そこに六神将の姿はなく、遠くに二体のフレスベルグが去っていくのが見えた。
「おや、逃げられましたね」
然程、残念そうでもなく呟いたジェイドは、部下に被害状況を問うた。
*****
「………何か、静かになったな」
「そうですね……」
「大丈夫かな……?」
ルークとイオンが不安そうに、言葉を交わす。
状況が分からない以上、無闇に室外に出ることも出来ず、落ち着かない時間を過ごすこと暫し。
ガタン!と、壁の一部が音を立てて外れた。
イオンとルークは、ビクリと身を竦ませ、兵士たちは武器を構え、ティアとアニスは一歩前へ出る。
「イオン様、ルーク様、ご無事ですか?」
姿を現したのは、先までの緊迫感を感じさせないジェイドだった。
「ジェイド!」
「良かった、心配してました」
ルークとイオンが、ホッと安堵の息を吐く。
「お二方もご無事で何よりです。
さ、危険も去りましたし、いつまでも狭い部屋では、窮屈でしょう?
お寛ぎ頂ける部屋まで、ご案内致します」
ジェイドが二人を促し、部屋を出る。
ティアとアニス、他の護衛らも続いた。
イオンとルークは気付かなかったが、ティアとアニスは気付いた。
――先ほど通った道とは、違うことに。
恐らく、戦闘の痕があまり残っていないルートを選んで、進んでいるのだろう。
「なぁ、ジェイド……」
「はい?」
ルークが、くいっ、とジェイドの襟を引いた。
「怪我した奴とか、その…死んだ奴とか…いるの、か?」
眉根を寄せ、不安そうにルークが問う。
ジェイドは、ふと微笑んで答えた。
「いえ。傷を負った者はいますが、命を落とした者は、幸いおりません」
ほぅ、とルークとイオンは息を吐いて、笑った。
「良かった」
「えぇ、本当に」
優しい少年らが傷付かずに済んだことに、ジェイドは珍しくホッとした。
「さぁ、こちらです」
ジェイドが扉を開け、護衛の一人が中を検分してから、ルークとイオンを通した。
「間もなく、セントビナーに到着します。
それまで、ゆっくりなさってくださいね」
*****アトガキ
長編がかなりご無沙汰でした、すみませんm(__)m
やっとセントビナーに着けるかな。
あ、ガイの話がありますね(汗)
一話延長して、ガイも合流させようと思います。
[ 23/28 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]