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「さて。貴殿方のご用件を伺いましょうか?」

膝をついた、六神将・魔弾のリグレットに槍を突きつけ、ジェイドは冷めた視線を向けた。

――それにしても、とジェイドは思う。

六神将は、互いに協力する、ということが出来ないのか。

チームワークなぞ全く考えずに、てんでバラバラに突撃してくる。

他人事ながら、頭を抱えたくなるほど、そのワンマンプレイぶりは酷かった。

タルタロスの帆を縛るワイヤーで捕縛した、黒獅子ラルゴと妖獣のアリエッタを、ちらりと眺めて、思わず溜め息を吐いた。

リグレットは、槍の穂先など意に介さず、ぎりっとジェイドを睨んでいる。

「何のつもりだ、死霊使い!」
「それは、こちらの台詞です。何のつもりで、タルタロスを襲ったのですか。
貴殿方はそんなに、マルクトと事を構えたいんですか?」

ふん、とリグレットは嘲笑を浮かべた。

「ダアトとマルクトが事を構える?
そんなことは、預言には詠まれていない」
「しかし、そうでないとも詠まれていない。そうでしょう?」

ぐっ、と言葉に詰まったリグレットは、憎々しげにジェイドを睨む。

しかしジェイドは、飄々と肩を竦めるだけだ。

「そんなに私を睨んだって、何も変わりはしませんよ」

取り敢えず連行、とジェイドは兵士に指示を出した。

その時、頭上から、赤い髪を靡かせた人影が、勢いよく飛び降りてきた。

「そこまでにして貰おうか、死霊使い!」

振りかざし、振り下ろされる刃から逃れ、ジェイドはその人物を確認する。

(神託の盾の法衣、赤い髪――)

「鮮血のアッシュですね」

言いながらジェイドは、周囲の兵士に、アッシュを包囲するよう目で指示を出す。

「そこまでも何も、この艦はマルクトの物で、この場所もマルクト領ですよ?
この場合、襲撃してきたのが貴殿方なら、退くべきも貴殿方でしょうに」
「うるせぇっ!とっとと導師を返しやがれ!!」
「導師?返すとは?」

人の話をまるきり無視した返答に、ジェイドはやれやれと肩を竦めた。

「それではまるで、我々が導師を拐かしたかのようではないですか」
「事実そうだろうが」
「はい?」

はて、とジェイドは首を傾げた。

「初耳ですが」
「何だと!?モー………」
「アッシュ!」

何事かを言おうとしたアッシュを、リグレットが遮る。

リグレットを一瞥して舌打ちしたアッシュは、ピィッと口笛を吹いた。

上空によぎる、大きな影。

「っ!?」

ザッ、と間近で吹いた強風に、ジェイドは思わず、目を閉じ、顔を庇った。

巨体が傍を通りすぎる気配に、慌てて顔を上げると、そこに六神将の姿はなく、遠くに二体のフレスベルグが去っていくのが見えた。

「おや、逃げられましたね」

然程、残念そうでもなく呟いたジェイドは、部下に被害状況を問うた。



*****

「………何か、静かになったな」
「そうですね……」
「大丈夫かな……?」

ルークとイオンが不安そうに、言葉を交わす。

状況が分からない以上、無闇に室外に出ることも出来ず、落ち着かない時間を過ごすこと暫し。

ガタン!と、壁の一部が音を立てて外れた。

イオンとルークは、ビクリと身を竦ませ、兵士たちは武器を構え、ティアとアニスは一歩前へ出る。


「イオン様、ルーク様、ご無事ですか?」

姿を現したのは、先までの緊迫感を感じさせないジェイドだった。

「ジェイド!」
「良かった、心配してました」

ルークとイオンが、ホッと安堵の息を吐く。

「お二方もご無事で何よりです。
さ、危険も去りましたし、いつまでも狭い部屋では、窮屈でしょう?
お寛ぎ頂ける部屋まで、ご案内致します」

ジェイドが二人を促し、部屋を出る。

ティアとアニス、他の護衛らも続いた。

イオンとルークは気付かなかったが、ティアとアニスは気付いた。

――先ほど通った道とは、違うことに。

恐らく、戦闘の痕があまり残っていないルートを選んで、進んでいるのだろう。

「なぁ、ジェイド……」
「はい?」

ルークが、くいっ、とジェイドの襟を引いた。

「怪我した奴とか、その…死んだ奴とか…いるの、か?」

眉根を寄せ、不安そうにルークが問う。

ジェイドは、ふと微笑んで答えた。

「いえ。傷を負った者はいますが、命を落とした者は、幸いおりません」

ほぅ、とルークとイオンは息を吐いて、笑った。

「良かった」
「えぇ、本当に」

優しい少年らが傷付かずに済んだことに、ジェイドは珍しくホッとした。

「さぁ、こちらです」

ジェイドが扉を開け、護衛の一人が中を検分してから、ルークとイオンを通した。

「間もなく、セントビナーに到着します。
それまで、ゆっくりなさってくださいね」





*****アトガキ

長編がかなりご無沙汰でした、すみませんm(__)m
やっとセントビナーに着けるかな。
あ、ガイの話がありますね(汗)
一話延長して、ガイも合流させようと思います。





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