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「で、誰?」

ルークは、イオンと親しげな少女に首を傾げた。

「ルーク、彼女は僕の導師守護役のアニス・タトリン奏長です」
「ぅえーと…?アニス、で良いのか…?」

また、名前と階級の区切りを聞き分けられなかったルークが確認し、無意識にジェイドをちらりと見遣ると、ジェイドはそうです、と頷いた。

「アニス、こちらの方は、キムラスカ・ランバルディア王国、ファブレ公爵が子息、ルーク様であらせられます」
「あ、あ…!気が回りませんで、申し訳ありません!!」

アニスは大慌てで、ルークに向かっても礼をとった。

「あ?あー、うん。別に気にしねぇよ。
どーにかなる訳じゃねぇし。
あと、オレに敬語とか、使わなくて良いっつの」

そのアニスに、ルークはヒラヒラと手を振った。

「ですが…」

アニスが渋ると、ルークはどうでも良さそうに髪を掻き上げる。

「めーれーだっ!っつったら良いか?
それに、ジェイドとティアも公式じゃなかったら良いって、言ってくれたぜ?」

だから、敬語ナシな!とルークは、ニッと笑った。

「わ、かりました…」

視線をやった先で、ジェイドが苦笑しながら頷いたのを見て、アニスも渋々と了解した。

「さーって、と。戻るって、さっきの部屋で良いのか、ジェイド?」
「えぇ。私はしばらく、艦橋にいますので。
――では、今後も護衛にあたるように」

ルークに頷いたジェイドは、部下にそう鋭く命じた。

兵士たちが、はっ、と姿勢を正す姿を後目に、ジェイドは踵を返した。




*****

艦の広さだとか、人の多さだとかを、楽しそうに話すルークとイオンは、先程までルークたちが使っていた部屋にいた。

イオンが、ルークともっと話したい、と言った結果だ。

笑い合う少年たちを見守りながら、ティアが顔を綻ばせた。

その時、ドォォンという音と共に、大きな揺れが艦を襲った。

ルークとイオンは、咄嗟に椅子の肘掛けに掴まり、立っていたティアたち護衛兵は、ぐっと足を踏みしめて揺れに耐えると、警戒を込めて周囲を見回した。

艦内に警告音が響き渡る。

イオンに付けられていた壮年の護衛兵が、イオンとルークに立ち上がるよう促す。

「申し訳ありません、ルーク様、イオン様。
当艦は現在、第一級警戒体制に入りました。
非常用の避難経路のあるシェルターへと、ご案内致します」

こちらへ、とその護衛兵が促す。

ルークとイオンが続くと、その周囲に兵が展開した。

ティアとアニスは、ルークらの近くで、最悪の場合は盾になる心積もりである。

「何が、あったんだろうな…」

ルークが不安げな声で言う。

「さぁ…。でも、きっと大丈夫ですよ」

イオンがルークの手を握り、一生懸命に笑顔を浮かべた。
ルークも、それに答えるように、緊張に強張った頬を動かす。

「だよな。ジェイド、強いもんな!」
「そうですよ」

不安に挫けそうになるのを、互いに励まし合いながら、彼らはシェルターに到着した。

「此処なら、大抵のことがあっても危険は及ばないでしょう。
どうかご安心下さい」

護衛兵が、二人を安心させるように微笑んだ。

「うん…」
「はい、ありがとうございます」

しかし、厚い壁越しに小さく聞こえる剣戟の音や、途切れ途切れの悲鳴、ビリビリと微かに壁を震わす震動などに、彼らは顔を青ざめさせる。

「なぁ、ティア…」

ルークは傍らにいるティアの服の裾を、そっと引っ張る。

ティアは警戒を湛えた表情を、出来るだけ優しげに微笑ませて、ルークを振り返った。

「なぁに?ルーク」
「誰も、死んでたり、しないよな…?」

はっ、とティアは息を呑んだ。

「怪我をするだけだって、すげー痛い。死んだりするのは、きっと、もっと痛いんだ」
「ルーク…」
「そんなん、オレ、嫌だから、」

不安に揺れる瞳をじっとティアに向けて、ルークは言い募る。

何と答えるべきか悩んだティアは、こう問い返した。

「もし、誰かが死んでいる、と言ったなら、貴方はどうするの?」

目を伏せて、少し考えたルークは、意を決したように、ティアを見詰める。

「……オレも、戦う。
誰にも死んで欲しくないから。だから、」
「それはダメ」

ティアはきっぱりと言った。
不安が行き過ぎたのか、興奮したようなルークが、ティアを睨む。

「っなんでだよ!?」
「良い?ルーク。
人に剣を向けるということは、同時に人に剣を向けられる覚悟を、そして殺される覚悟を決めなければならないと言うことよ。
貴方は殺されてはならないの。
だって、貴方が殺されたら、将来のキムラスカで貴方に守られるはずの人たちはどうしたら良いの?
だから、貴方が決めるべきなのは、戦う覚悟ではなく、守られる覚悟よ」
「守られるのに覚悟なんているのか?」

ルークはきょとんと、目を瞬かせた。

「そうよ。守られると言うことは、目の前で誰かが戦っていても、自分は戦えないと言うことよ。
目の前で誰かが傷付き、或いは倒れても、何もしないで逃げなければいけないの。
簡単には、出来ないでしょう?」

ルークは固い表情でコクリと頷いた。

「何があっても生き延びる。
とても強い覚悟が必要だわ。
そして、貴方が決めるべき覚悟は、この守られる覚悟。間違えちゃダメよ?」

くす、とティアが悪戯っぽい笑みを浮かべると、ルークも少し表情を緩める。

「この部屋の外では、貴方やイオン様を守るために、戦っているの。
辛くても、頑張って守られててちょうだい」
「…ん、分かった」

そう返事したルークの目は、静かに覚悟を決めていた。





*****アトガキ
えー、タルタロス襲撃です。
ルークがティアに言い諭されてるのを、横で聞きながら、イオン様も覚悟しています。
書けませんでしたが。←
ジェイド側も書こうと思ってます。

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