5
船室の集まった区域の外、甲板の下の踊り場のような場所で、緑の少年は気持ち良さそうに風を受けていた。
「イオン」
「あ、ルーク。ジェイドとの話は終わったんですか?」
「おぅ、まぁな」
イオンの護衛をしていた者は、二人の会話を邪魔しないように、数歩退がった。
「つーか、何でこんなトコいんだよ。寒くねぇのか?」
ルークは、少しでも風避けになろうと思ったのか、イオンより風上に立つ。
「ありがとう、大丈夫です。
それにほら、見て下さいルーク。すごく、綺麗だと思いませんか?」
「ぁん?」
眼下に広がる平原、遠くに延々と横たわる山々。
――美しい、翆緑のグラデーション。
「きれー…だな…」
「でしょう?」
「だな!」
ニコニコと少年たちは微笑みあった。
「ところで、ルーク。
ティアのことなんですけど…」
イオンはちらりと、ティアの腰に巻かれた、逃亡防止の紐を見遣る。
「彼女は、何かしたのでしょうか」
「う…、あー、えーと…」
ティアのしたことの何が罪なのか、具体的には分かっていないルークが視線を泳がす。
「て、ティア…」
恐る恐るルークがティアを見ると、ティアはニコリと笑って跪いた。
「導師、よろしいでしょうか」
「え?えぇ…、何でしょう?」
「私は幾つか、許されざる罪を犯しました。
ファブレ邸への不法侵入、邸内での狼藉、更にはファブレ公爵子息を屋敷から無断で連れ出し……これは事故ですが、第三者から見れば、立派に誘拐かと思われます。
これらの罪を犯しておりますので、私はこうして縄を懸けられています」
ティアは淡々と己の罪状を述べ、深く頭を垂れた。
「ですが、貴方にも理由はあったのでしょう?」
「えぇ、理由はありますが、それで罪が帳消しになる訳でもありません。
また、理由を述べ、申し開きをするべきは、この場ではなく裁判の時かと考えます」
「………。そう、ですね……」
イオンは少し悲しそうに俯いた。
ティアは、それに、と言葉を接ぐ。
「私はもう、神託の盾騎士団を離脱しております。
離隊届けが受理されているかは、すぐにダアトを離れた私には分かりませんが、私はすでに導師の庇護下には御座いません。
どうか、お心を痛めませんよう」
これには、イオンだけでなく、ルークも驚いて、ティアを振り返る。
「そーなのか!?」
「はい。渓谷内では思わず、所属階級まで述べてしまいましたが、私はすでに、そこに属しておりません。
軍服も、本来であるなら即刻返還せねばならないのですが……」
「替えの服なんて、持ってんのか?」
「いえ、所持しておりません」
では、とイオンが声を上げた。
「では、ティアを擁護することは、導師として間違っている、ということですか?」
「……?はい、その通りです」
その少し変わった確認に、ティアは怪訝な顔をしたが、イオンは気付かないまま、決然とした声で言った。
「ならば、セントビナーで私服を用意するまで、そのままで構いません。
ですが、貴方の罪に関しては、我がローレライ教団は一切関知致しません」
「はい、もとより承知の上です」
ティアは、いっそ穏やかとさえ言える表情で、イオンに頭を下げた。
そこに、足音とともに、ジェイドが姿を現した。
すっ、と膝を折って、礼をとる。
「イオン様、ルーク様も此方におられましたか。
少々危険となる可能性がありますので、よろしければ艦内にお戻り頂いて良いでしょうか」
「はい、構いませんよ」
「別に、いーぜ?」
二人がそれぞれに頷くと、ジェイドはありがとうございます、と頭を下げ、後ろを振り返った。
「アニス!」
「はい!
――イオン様、お側を離れましたこと、大変申し訳ありませんでした!
ですが、ダアトに戻るまで、いえバチカルに到着するまでで構いません。どうか御身をお守りすることを、お許しください!」
アニスと呼ばれた少女は、膝を突き、首を晒して頭を深く垂れ、一心に許しを請うた。
その姿を見たイオンの目の色が一瞬、深くなって憂いを湛えたが、すぐにそれは押し隠された。
「分かりました。バチカル以降は、それまでの働き次第、ということにしましょう」
「ありがとうございます!」
パッ、と思わず顔を上げたアニスは、すぐに顔を伏せた。
*****アトガキ
うん…、ルークが後半黙りっぱなしなんだ…orz
アニス合流させたからなんだけど…。
――大丈夫、次回は喋るよ、きっと!
[ 20/28 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]