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「ところでさ、ジェイド。
この陸艦……あー、タルタロスだっけ。どこに向かってんだ?」
ルークは、自分の名を明かしてからというもの、椅子に座らず直立しているジェイドに尋ねた。
「現在の進路は、セントビナーへ向けています」
「いや、それって最終目的地じゃないんだろ?」
ルークが問うと、ジェイドは目を見開いた。
「――何故、そう思うのです?」
「あ?だって、国境に行く通り道にセントビナーがあるんだろ?
それって、グランコクマに行くルートじゃないっぽいし。
んでも、ジェイドはセントビナーにオレたちを下ろすためだけに向かうってより、通り道だからついでにオレたちを乗せてくれたみたいだったし。
そしたら、その先にジェイドの用事があるんだろうな、って思ったんだけど」
違ったか?
と首を傾げるルークに、ジェイドは苦笑を浮かべた。
「ルークはとても頭の回転が速いんですね。
うっかり私が口を滑らせてしまったのかと、冷や冷やしました」
ルークの背後で、ティアが何故か弟を自慢する姉のような顔をしたのは、思考の端に追いやって、ジェイドはルークに笑みを向ける。
「その通りなのですが、行き先や目的は、密命ですのでお教え出来ません。
申し訳ないですが」
「あ、そーなのか。分かった」
ルークはいたって素直に聞き入れた。
ジェイドが本当にすまなそうにしている姿が、似合わないとか、そう思ったわけではないのだが。
と、部屋の扉がノックされた。
「師団長、お話し中申し訳ありません。
よろしいでしょうか」
「ルーク、良いですか?」
「は?――え、えーと…別に、良いぞ……?」
ジェイドが当たり前のようにルークに許可を取るが、ルークは驚いて目を見開き、慌てて頷く。
その様子を見て、ルークは目上の者として扱われることに慣れていないことがジェイドには分かったが、本人が気付かないからと言って、ぞんざいに扱って良い訳ではないので、
ルークには慣れてもらうしかないだろう、と考えながら扉を開く。
そこには、副官であるマルコが立っており、ジェイドに敬礼した後、声量は落としているが鋭い声で、こう告げた。
「報告致します!
導師守護役アニス・タトリン奏長は、和平反対派に通じている恐れあり!現在、割り当てました部屋に、見張りを付けて押し込めてあります」
「……証拠は」
報告を聞いたジェイドの顔も、自然厳しく引き締まる。
「はっ!こちらです」
マルコは、ジェイドに折り畳んだ一枚のメモを差し出した。
無言で受け取ったジェイドがその紙を広げると、メモにしか見えなかった大きさが予想以上に広がり、便箋二枚分ほどの大きさになった。
そこには、ルグニカ平野の地図と、走り書きのような文章が書かれていた。
「予想進路と兵士の配置、武器などの積載量、ですか…」
ふふ、と低く笑ったジェイドは、表情を薄い笑みで隠して、ルークを振り返った。
「申し訳ありませんが、ルーク。私はちょっと席を外します。
扉の前には衛兵を付けておきますが、一室に押し込められるのも窮屈でしょう?
艦の機密部以外は見て回っても結構ですよ。
その際は、衛兵に声を掛けていただければ、彼らが案内しますので」
「え、マジで!?よっしゃ!!
ティア、行こうぜ!!って、あ……」
ルークはうきうきと振り返って、ティアの両手を拘束する拘束具に眉尻を下げた。
その悲しげな表情のまま、ジェイドを振り返る。
一連の流れを見ていたジェイドは、思わず吹き出した。
柔らかい笑みを浮かべて、ジェイドは提案した。
「兵士を3名付けます。
2名はルークの護衛に、1名はティアの見張りに。
その代わり、ティアの拘束を今だけ解きましょう」
「やった!ありがとな、ジェイド!!」
ジェイドの視線を受けたマルコが兵士を呼び寄せ、ルークとティア、3名の兵士はタルタロス見物に出た。
その後ろ姿を見送って、笑みを消したジェイドが、マルコに話を促す。
「タトリン奏長が、鳩にこの手紙を括り付けているところを兵が取り押さえ、手紙の内容をあらためましたら、先のようなものだったため、急ぎご報告せねばと」
「えぇ。誰に宛てたものかは?」
「いえ、まだ。ですが、鳩も押さえてありますので、直ぐに知れますかと」
「良くやりました。まずはタトリン奏長に訊いてみますか」
軽く言っているが、ジェイドの声には怒りが滲んでおり、いつもの薄い笑みさえ消された端正な顔は、それだけで背筋が冷える。
マルコは、この上司だけは敵に回したくないと思いながら、敬礼した。
*****アトガキ
・まず、イオンが同席していないので、和平の話は出ない。
・ティアの拘束は解いたと言っても、腰に行動制限のための紐くらいは付いてる。
・アニスが話に出ないまま、退場しそう。
……良いのかな…
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[mokuji]
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