2

イオンは護衛の兵に守られながら、宛がわれた部屋へと戻っていった。

その背を見送った二人が通されたのは、実用的だが上質な椅子が数脚と広い机の置かれた、恐らく軍の高官が使用する会議室だった。
ミュウは、ルークの道具袋で昼寝中だ。

「ここなら、防音も盗聴対策もしっかりしてますから、安心して下さい」
「お、おぅ……?」

何故、そんな気を使われるのか、いまいち解っていないルークは首を傾げつつ、頷いた。

「どうぞ、座られて下さい?」
「ん」

ルークは扉から最も離れた席に座り、ティアはそのルークの後ろに直立する。

ジェイドも、ティアに席を勧めることなく、机を挟んでルークを正面から見た。

「さて、伺いたいことは二つあります。
一つ目は、貴殿方のマルクトへの入国方法です。
ルーク、貴方はどうやって、マルクトに来ましたか?」
「え?えーと…」

答えに窮したルークは、ちらりとティアを振り返る。
その視線に気づいたティアは、ルークを安心させるように小さく笑みを向けた。

「大佐、入国方法は私が説明します」
「えぇ、構いませんよ」

ジェイドはティアに鷹揚に頷いた。

「私とルークは、疑似超振動を起こしてしまい、気付いたらバチカルから、マルクト領内の渓谷に飛ばされていました。
不正に国境を越えてしまったことは間違いありませんが、故意ではありません」
「そうですか。
報告では、二日前、第七音素の超振動は、キムラス・ランバルディア王国、王都バチカル方面から発生、マルクト領内タタル渓谷にて収束したことが観測されています。
貴殿方の言葉と、矛盾はありませんね。
もう少し、詳しく伺いたいのですが、それより先に、もう一つの質問を先に致しましょう。
――ルーク、貴方のお名前を、フルネームで教えて頂きたいのですが」

ジェイドの質問に、少し考えた後、結局また、ティアを振り返るルーク。
ティアは、ルークに小さく頷いて、囁いた。

「もう気付かれてると思うわ。隠しても意味はないでしょう。
隠してしまうより、正直に告げて、保護してもらった方が良いわ」
「分かった」

こくん、と頷いたルークは、ジェイドの薄く笑みを浮かべた顔に視線を戻す。

「オレの名前は、ルーク・フォン・ファブレ」

そう告げた途端、ジェイドは机を避けて、ルークに跪いた。

「ちょ、ジェイド!?」
「ファブレ公爵ご子息であり、第三王位継承者であらせられるルーク様とは存じませず。
これまでの無礼、誠に申し訳ありません」

深々と頭を下げるジェイドに、ルークの方が慌てふためいている。

「い、良いってジェイド!
オレ、お前に失礼なこと、された覚えもねぇし!」
「いえ。許可なく言葉を交わし、御名を呼び捨てにしました」

御沙汰は如何様にも、とますますジェイドは頭を下げる。

「じゃ、じゃあ、許可するから!
だから、立って、普通に話してくれよ!
そんなんじゃ、お前の顔見えないし、遠いじゃねぇか!!」
「!」

ジェイドはルークの必死な声に、思わず顔を上げて、また失礼をしてしまったと思う前に、ルークの泣きそうな表情に息を飲む。

「頼むから、遠くに行くなよ…」

そんな顔で、そんな声で懇願されて、一体誰が拒めるだろうか。

ジェイドは、すっと立ち上がり、俯いてしまったルークの旋毛を見る。

「――ルーク」
「あ…」
「今まで通りにしますから、そんなに落ち込まないで下さいよ。
私が苛めてるみたいじゃないですか」

笑いを含んだ声に、ルークも少し笑った。

「ただ、公の場では勘弁して下さいね。
私にも貴方にも、立場、というものがあるんですから」
「ん。ティアにも言われた」
「そうですか」

ちら、とティアを見ると、苦笑を浮かべてジェイドを見ている。

あぁ、彼女も困惑したのだな、とジェイドは思い、こちらも苦笑した。

それからジェイドは、表情を引き締め、二人の間に何故、疑似超振動が起きたのかを問うた。

「それは……」

ティアがちょっと言い淀む。

「……ティア?」

ルークが、心配そうな顔で振り返った。
咄嗟にティアは、笑顔を浮かべる。

「大丈夫よ、ルーク。ありがとう」

ティアは笑みを消し、真剣な表情で、ジェイドを見る。

「端的に事実のみを申し上げますと、私はファブレ公爵邸に、騎士やメイドらを眠らせて不法侵入し、また屋敷内で許可なく刃物を振り回した私から、兄を――ルーク様の剣術の師であるヴァン・グランツを庇おうと飛び出されたルーク様と、私の武器がぶつかり、疑似超振動は起こりました」

淡々とティアが告げると、ジェイドはドアを開けて兵を呼び、ティアを拘束した。

「ティア!……ジェイド!?」
「良いのよ、ルーク。これが当然なの。
もしここで、大佐が私を見逃していたら、キムラスカの人々は激怒するでしょうから」
「でも……」

心配そうにティアを見るルークに、ジェイドは厳しい目を向けた。

「ここでティアを放置しておくことは、貴方のためにもティアのためにもなりません。
貴方がティアを庇いたいのでしたら、キムラスカの裁判の場でしてあげることですね」
「ん……」

少し考えて、ルークは頷いた。
今はティアの罪を決める場ではないのだ、と理解したからだ。

「ですが、牢に連行するのはまだ後にしましょうか。
ルークも急に一人にされたくはないでしょう?」
「あ…うん!――さんきゅ…」

ぼそぼそと言われた礼に、ジェイドは頬を僅かに緩めた。




*****アトガキ
ティアは大人しく捕まります。それが当然です。
すぐに連行しなかったのは、ティアが本当にルークを守っていたし、ルークもティアがいなくなれば寂しいだろう、というジェイドの100%厚意からです(笑)

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