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「さ、私は名乗りましたよ。
貴方のお名前をどうぞ?」

ジェイド・カーティスと名乗った男は、やんわりした笑顔を浮かべ、ルークを促した。

「…………」
「黙秘ですか……」
「違ぇよ。オレは軍人じゃねぇから、階級なんざねぇんだっつーの!」

やれやれ、と溜め息を吐く態度に腹が立ったルークは、ジェイドに噛み付く。

「おや、そうなんですか。
では、その腰の物は?」
「護身用だっ!」

ぷいっ、とそっぽを向いて、もう答えねぇ、と態度で示す。

「では、もう一つだけ。
あなた方は、何をしにこの森へ?」
「ちーぐるを見に来たんだよ」

突っ慳貪にルークが言い捨てると、ジェイドは確認するようにティアに視線を向けた。

「えぇ、彼の言う通りです。
先程、イオン様の仰られた盗難事件の話を聞いて、チーグルに興味を持ったんです」
「なるほど〜。
では、イオン様。戻りましょうか」
「え…っ?」

ティアの話に尤もらしく頷いてみせた男は、脈絡もなしにイオンを見る。

「危険な可能性のある場所に、御身を近付ける訳には参りませんから」
「ですが、チーグルは……っ」

イオンは、慌ててジェイドを見上げる。
応えるジェイドの声は、冷たさを孕んでいる。

「チーグルは教団の聖獣だから、ですか?」
「はい!」
「ですが、イオン様御自らお出でになる必要は、ありませんよね?」
「…っ」

イオンは唇を噛んで、俯く。
対するジェイドの声に変わりはなく、平坦に述べる。

「教団員に、それこそアニスにでも命じて、調査させれば良いのです。
ましてや、エンゲーブはマルクトの領土なのですから、教団でなくとも、マルクト軍が調査すれば済む話なのですから」
「………」

ますます俯くイオンに、ルークがキッとジェイドを睨んだ。

「おい、おっさん!
別にそこまで言わなくて良いだろ!?イオンはただ、正しいと思ったことをしようとしただけだ!」
「…………」

イオンを庇うように、ルークが立ち塞がる。

「おっさんの言ってることのが、多分正しいんだけど。
でも、イオンだって、頑張って考えたんだからな!」
「ルーク…」

一生懸命言い返すルークに、付き合いが浅いとすら言えないほどなのに、ティアは何だかルークの成長を感じてしまった。

「それに!イオン一人で行くのがダメなんだろ!?
だったら、オッサンもいるし、兵士も何人かいるし、一緒に行きゃ良いじゃねぇか!」
「……ジェイド、いけませんか?」

ルークの態度に励まされたらしいイオンが、ジェイドを見上げる。

じっと考え込んだジェイドは、ややあって深々と溜め息を吐いた。

「…致し方ありません。
ただし、イオン様。
護衛致します我々から離れないこと、あまりに危険な場合は引き返しますことをお約束下さい」
「……はい」

真剣な表情で頷いたイオンの肩を、ルークがポンと叩く。

「良かったな、イオン!」
「はい、ルークが庇ってくれたお陰です!」
「ばっ、バカかっ!オレは、何もしてねぇっつの!!」

ふいっとそっぽを向いたルークに、イオンはくすくすと笑った。

その場にいた兵士五人と、ジェイド、ティアで、ルークとイオンを護衛するための陣形を組む。

九人に増えたパーティで、森の奥へと進んで行く。



*****

幾度目かの戦闘を終えて、ルークはジェイドにキラキラした瞳を向けた。

「最初に見た時も思ったけどよ、譜術ってスゲーのな!」
「そ……そうですか?」

そんな純粋な瞳を向けられたことなど、経験したことの無かったジェイドは、僅かに怯んだ。

「スゲーって!
何か唱えながら、キラキラーってしてたと思ったら、ヒューンで、ドッカーン!だろ!?
はぁー…スゲーなー…」
「は、はぁ……」

擬音だらけで、ジェイドにはルークが何を凄いと言っているのか、さっぱり伝わらなかったらしい。

その様子に、ティアもイオンも、笑いを堪えるのに必死だ。

しかし、次の瞬間に、二人は(のみならず、兵士も)驚いて、目を見開いた。

「ここはまぁ、礼を言っておきますか」

ジェイドが、柔らかく目を細めたのだ。

まだ出会ってから半日と経っていないティアですら、ジェイドのその表情は恐ろしく違和感を感じるのだ。
部下である兵士たちは、推して知るべし。

「何で、礼だよ?」
「誉めてくださったんでしょう?」
「う、いや…その……」

二人は、硬直した周囲に気付かないまま(ジェイドは気付いていただろうが)、和気藹々と話ながら、進んでいった。








*****アトガキ
JLにしたいのです。
次は、タルタロスに飛ぶと思います。

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