1

朝、ティアとルークは、装備を整え、チーグルの森へと向かった。

「真剣って、重いのな…」
「えぇ。その重さは、責任の重さよ。ルークなら、その意味を理解出来るって、信じてるわ」
「うん…。
ちょっ、ティア!あれ!
アイツ、ヤバくないか!?」
森の入り口で、ウルフに囲まれている少年を見付け、ルークは慌ててティアを振り返る。

「えぇ!ルークはそこにいて!巻き込まれるわ!!」

しかし、ティアが駆け寄るより早く、朗々と詠唱が響いた。

「唸れ烈風!大気の刃よ、切り刻め!タービュランス!!」

囲まれている少年を中心に、巨大な竜巻が現れ、ウルフを吹き飛ばし、鎌鼬が切り刻む。

その威力に、駆け寄ろうとしたティアも、ルークも、呆然とする。

竜巻がおさまった時、ウルフは姿を消し、少年は不思議なことに傷一つ無かった。

「ご無事ですか、イオン様」

少年に近寄ったのは、青い軍服に、眼鏡を掛けた男だった。

他にも、部下らしき兵士を数人連れている。

「はい、僕は大丈夫です」
「そうですか。安心しました。
それで、そちらの方々は何をなさっておいでですか?」

男は、状況に対応できずにいたティアとルークを振り返る。

「いや、ソイツが襲われそうだったから、助けようとしたら、アンタが片付けちまったから…」

何かに気を取られているらしいティアの代わりに、ルークが口を開く。

「おや、そうでしたか」
「ちょっとルーク、良いかしら?」
「ん?おぅ」

黙っていたティアが、膝を付き、ルークを見て、発言の許可を取る。

ルーク自身は何を訊かれたかは、余り理解していないようだが、別に困らないし、と頷いた。

「申し訳ありません、よろしいでしょうか?」

ティアは、今度は少年に許可を求めた。
少年は、きょとりと首を傾げる。

「はい、何でしょう?」
「畏れ多くも、導師イオン様とお見受けしますが…」

少年は、軽く目を見開いた。

「はい、そうです。貴方は、神託の盾の者ですか?」
「ティア・グランツと申します」
「あぁ…、ヴァン揺将の妹さんですね」

少年――イオンは、にこりと微笑む。

「はい。畏れながら、イオン様が、何故こちらに?」
「エンゲーブでの食料盗難事件について、調べようと思ったのです」
「エンゲーブの…」

ティアが呟くと、イオンは悲しそうに目を伏せた。

「どうやら犯人はチーグルのようなのです。本来、草食であるチーグルが、肉類まで盗むなんて、何か事情がある筈です。
それに、チーグルはローレライ教団の聖獣…出来ることなら、力になりたいと、そう思いまして……」

二人が口を閉ざしたので、軍服の男がイオンに話し掛ける。

「それでしたら、イオン様。
何故、私共に声を掛けて下さらなかったのですか」
「完全に、僕の我が儘だったので…。そんなことに手を煩わせてはいけないと思ったんです…」

俯くイオンに、男は溜め息を吐き、部下の兵士に尋ねた。

「イオン様が抜け出された当時、護衛に当たっていた者は」
「はっ。当時その任にありました者は、導師守護役、アニス・タトリン奏長お一人です!イオン様より、他の護衛は下がるよう、申し付けられましたので」

その答えに、男は再び深く溜め息を吐いた。

「では、伝令を。アニス・タトリン奏長に見張りを。目を離してはなりませんよ」
「はっ、了解致しました」

兵士の一人が、鎧を鳴らしながら、走り去った。

「ジェイド!?何故…?」
「イオン様。もっとご自分のお立場をお考えください。
イオン様に何かあってからでは、遅いのです。可能性だけであっても、危険な場所へ、御身を近付けてはならない。
その警戒を、アニスは怠りました。本来であれば、拘束、のち処刑されても文句は言えません」

イオンは唇を噛み、項垂れた。

男は、イオンから視線を外し、ルークを見た。

「そちらの女性が、ティア・グランツという名だということは聞きました。
では、貴方は?」
「……ルークだ」
「階級や身分は?」

男が追及してくるのに、ルークは目を逸らして、答えまいとする。

「………」
「……はぁ。お答え頂けませんか」
「……アンタの名前だって、聞いてねぇよ」

ルークが不満そうに口を開くと、男は目を見開き、ぽむと手を叩いた。

「そう言えば、そうでしたね」
「んだよ、ワザとらしい…」
「おや、それは失礼。
私は、マルクト帝国陸軍、第三師団師団長、ジェイド・カーティス。畏れ多くも、大佐位を頂いております」

眼鏡の奥の瞳が、見たこともないような綺麗な深紅であることに、ルークはこの時、初めて気付いた。







*****アトガキ
ジェイドとイオン様登場。
本当は、アニスは拘束しようと思ったんですが、それって内政干渉?と思って、ブレーキ。

[ 11/28 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -