4

ボタンの付いた上着を着て、夕食を摂った後、ルークはベッドに座って、ティアを上目で見た。

「なぁ、ティア。何か書くもん、持ってねーか?」
「メモ帳と、ペンで良ければ、持ってるけど?」

首を傾げるティアに、ルークは口ごもりながら、言葉を続ける。

「その…それってやっぱ、オレにくれたりとかは……、無理だよな?」
「別に構わないわよ。緊急で必要な訳でもないし。……でも、どうするの?」

ティアの質問に、ルークはぎくりと肩を震わせた。

「教えても良いけど……笑わうなよ?……日記、書くんだ」
「ルーク、日記書いてるの?毎日?」
「……おぅ」

ルークは、俯きながら頷いた。

「偉いじゃない、ルーク!
毎日、忘れず書けるなんて、凄いわ!」
「……わ、笑わねぇの、か…?」

おずおずと見上げたルークに、ティアは不思議そうな顔をした。

「どうして笑うの?毎日続けるなんて、簡単なことじゃないのよ?」
「そ、そっか…」

ずっと不安げな表情をしていたルークは、ようやく頬を緩めた。

「じゃあ、はい。ルーク。
貴方にあげるわ」
「ん。……さんきゅ」
「どういたしまして」




お湯を使って、日記をつけたルークは、再びティアに声を掛けた。

「なぁ、ティア。ちーぐるって、知ってるか?」
「チーグル…教団の聖獣とされる草食獣ね。東ルグニカ平野の森……丁度、このエンゲーブの北の森に生息していると言われているわ。
チーグルが、どうしたの?」
「さっき、廊下で聞いたんだけどよ。何か、そのチーグルが、この村の食料を荒らしてんだってな」

心なしか、ルークの目が輝いている。
ハッキリ言ってティアは、この純粋な、可愛らしい瞳に弱かった。

「……っでも、ルーク。貴方、バチカルに早く帰らなければいけないんじゃないの?」
「どうせ帰ったって、また軟禁生活に逆戻りだ…。
どうせなら、もっと色んなの見たいじゃねぇか…!」

そして、泣き出しそうに歪められた、悲しげな瞳には、もっと弱かった。

「……分かったわ。チーグルの森に行ってみましょう」
「やったぜ!」

ルークが大喜びしている姿を見れば、まぁいっか、と思っている自分を、ティアは慌てて戒める。

「ただ、ルーク。森にはきっと、魔物がたくさんいるわ」
「……あ」
「私は絶対に貴方を守るけれど、どうしても無理なことがあるかも知れない。
だから、明日の朝。真剣を買いましょう」
「……!」

真剣、と言う言葉に、ルークは息を呑んだ。
顔色を無くしたルークに、ティアは安心させるように、微笑んで見せた。

「貴方を戦わせるためじゃないわ。貴方が、自分の身を守るためよ」
「……うん」
「私が、貴方を守るわ」
「うん」

こくり、と頷いたルークに、ティアはさぁ、と促した。

「もう、寝ましょう。明日、チーグルの森に行くのなら、また歩くことになるわ。
体力を回復させないと、ね。
おやすみなさい、ルーク」
「おぅ、おやすみ」


横になったルークは、早々に寝息をたて始めた。

やはり、疲れていたのだろう。


――もっと色んなの見たい、か…。


ルークの純粋な願いを思い返して、ティアは微笑み、浅い眠りに落ちた。



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