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「ほらよ。ここがエンゲーブだ」
「へぇ…」

ルークはさっさと馬車から降りて、村の入り口を珍しそうに眺めている。

ティアは、そんなルークに、そこで待っていてくれるよう頼み、馭者に近付いた。

「すみませんが」
「あ、何だ?お嬢さん」
「料金の話です」
「料金?何かあったか?」
「グランコクマまでが一人12000ガルドでしたよね?
グランコクマより遥かに近いエンゲーブまでも、同じ12000ガルドと言うのは、納得いきません。
もっと安くなるのではありませんか?」

ティアが問い詰めると、馭者は言葉に詰まった。

そのまま睨み合うこと暫し。
先に音を上げたのは、馭者だった。

「分かったよ…。一人6000ガルド、二人で12000ガルドだ」
「…まだ、安くなるのではありませんか?」
「いっ、いや、これ以上は…!」

じっ、とティアは馭者を見詰める。
無言の圧力。

これまた、馭者は根負けした。

「あー!たくよぉ、仕方ねぇなぁ!一人4000ガルドだ!!これ以上は本当に無理だからな!」
「はい、分かりました」

ティアは、馭者に手を突き出し、ルークのボタンを返すように要求した。

渋々渡す馭者からボタンを受け取り、財布から二人分、8000ガルドを取り出して、馭者に渡す。

「ここまで、ありがとうございました」
「礼を言われることじゃねぇよ。
これが俺の仕事だからな…」

馭者は馬車に乗り込み、二人を置いて、再びグランコクマへと向かっていった。




*****


「ルーク、待たせたわね」
「いや、そんなに待ってねぇよ。
何の話してたんだ?」
「料金の話よ。ルークのボタンを返して貰ったから、宿屋で付けてあげるわね」
「ん。頼んだぜ」

先刻から、キョロキョロと落ち着きなく辺りを見回しているルークは、早く中に入りたいのだろう。

しかし、ティアはルークに待ったをかける。

「んだよ?」
「早く入りたいのは分かるけれど、ちょっとした注意事項よ。よく聞いて」
「ん?」
「ルーク、ここはキムラスカの敵国、マルクトよ。貴方にとって、安全とは言い難いわ」
「……どーいうことだよ?」

ルークは、きちんとティアの方を向いて、聞く姿勢をとった。

「貴方のお父上、ファブレ公爵は、キムラスカ国軍元帥であらせられる。
つまり、この国には、貴方のお父上に殺された者の家族がたくさんいる、ということよ。
私が何を言いたいのか、分かる?」
「父上を憎んでる奴が、たくさんいる…ってことか?」

ルークは俯きながら、少し辛そうな声で言う。

けれど、ここで隠してしまっては、ルークのためにならない、とティアは続けた。

「そうよ。そして、その憎しみが貴方に向かないとも限らない。
だから、良い?決して、フルネームを名乗らないで」
「でも!でも、オレの髪と目は、キムラスカ王家特有だ、って…」

すぐにバレるんじゃ?と首を傾げるルークに、ティアは大丈夫、と微笑んだ。

「普通、庶民では隣国の王家の特徴までは、知らないわ。
逆に、貴方のその容姿で素性に気付いた者には、名前を明かして、保護を求めた方が良いかもしれないわね」
「ふーん…。分かった」

ルークが頷くのを確かめてから、ようやく二人はエンゲーブへと入った。

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