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  再びその手を取る為に


こうして再びリドルの姿を目にする時を、どれだけ夢に見ただろう。

ゆっくりと、一歩一歩優雅な動きで階段を降りてくるその姿は、記憶にあるそれと寸分違わぬものだった。陶器のように白い肌も、鴉の濡れ羽色の髪も、きっちり着込んだローブも、何もかもがあの日と同じ。

眩暈のような感覚が身体中を駆け巡る。けれどそれはほんの一瞬で、直ぐに取り繕うようにライムは微笑んだ。

目は、逸らせない。


戻って来た。私はこの時代に戻って来た。今度こそ、自らの意思で。他の何処でも無い、リドルがいるこの時代を選んだ。

再びその手を取る為に。大切なものを、二度と見失わないように。
今の貴方にあの日々の記憶は無いけれど────私は覚えている。だから、それでいい。


「モモカワ・ライム!」

扉の向こうへ踏み出すと、全ての視線はこちらに向いた。立ち上がり進む先を手で示すディペット校長に頷き返して、ライムはスツールに置かれた古い組み分け帽子の元へと歩み寄る。教職員のテーブルでは、まだ若いダンブルドアが微笑んでいた。

「初めまして、お嬢さん」
「初め、まして」

被った帽子は大きく、ライムの視界をすっぽり覆う。真っ暗な闇の中で頭の中に直接声が響く。

「さてさて……これはまた、変わったお客さんじゃな。こんなに複雑な組み分けは、数世紀ぶりかもしれん」

楽しそうにそう言うと、帽子はぶつぶつと悩み始めた。

「ふーむ……勇気もある、努力家で誠実……知識も叡智への欲求もある。目的の為なら手段を選ばぬ狡猾さも兼ね備えている」
 
「何より仲間思いだ。ふむ……君ならばどの寮でもきっと素晴らしい結果を残すことが出来るだろう。さて、どうするか……」

口調は明るく、この珍しい組み分けを楽しんでいるようだった。
深く悩み出した組み分け帽子に、ライムはひとつ疑問を口にする。

「貴方は私の希望を聞いてくれる?」
「もちろん。……しかし、まあ、私としては君はグリフィンドールが最も相応しいと思うがね。グリフィンドールに行けば、君はそこで誠の友を得るだろう」
「────私の行くべき場所は、そこではないわ」

ただ静かに、そうつぶやいた。

「……君は何を願って、此処に来たのかね?」

打って変わって神妙な声で帽子は尋ねる。広間のざわめきは遠く、ライムには帽子と自分の声が良く聞こえた。

「私は、私の“のぞみ”を叶えるために、ここに戻って来たの」

凛とした迷いの無い声。静かに凪いだ心は揺らがない。意思の強い瞳を閉じて組み分けを待つライムの様子に、帽子は暫し考え込むように黙った。

「ひとつ、聞いてもいいかね?」
「なあに?」
「君の望みとは、一体何かね?」

予想外の質問にライムは軽く目を見開いて、笑った。

「────秘密。だって願い事は、誰にも話さない方が叶うって言うでしょう?」

楽しげにそう言うライムの答えに、帽子は突然大きな笑い声を上げた。
唐突に笑い出した帽子に、大広間が俄かにざわつく。

「そうか……ならば君は……むしろ……スリザリィィィィィィイン!!!!

帽子を脱ぎ捨てて、ライムは颯爽と立ち上がる。バサリと靡くローブの裾を払って、小さく深呼吸。

迷いは無かった。

真っ黒だったネクタイが、一瞬にしてグリーンとシルバーのスリザリンカラーに染まる。

大きな拍手と、歓声が上がるスリザリンのテーブル。ライムは真っ直ぐにそちらを見て、椅子に悠然と腰掛け手を叩くリドルを見付けた。

「私はあの結末を、変えに来た」

過去はなぞらない。例えそれで失うものがあっても、記憶だけはずっと 失くさないから。他の誰が覚えていなくとも、私自身が覚えている。

後悔が無いわけでは無い。けれどもう、何度もやり直したいとは思わない。

やり直すのはこの、一度きり。

ゆっくりとした足取りで、ライムはスリザリンのテーブルへと向かう。リドルはずっとライムを見たまま微笑んでいる。
以前はずっとリドルを避けていた。出来る限り関わらないようにと猫を被り、ひたすらに逃げていた。────けれど今度はそんな遠回りはしない。変わる事をもう、恐れない。

空席はリドルの隣だった。唇をぐっと噛み締め、ライムはゆっくりとした足取りでリドルに近づく。その背に、周囲の視線を痛いほど感じた。周りなど気にしない。手段など選ばない。望みのためなら何だってする。


────だから私は、スリザリンへゆく。

「ようこそ、スリザリンへ」

差し伸べられた白い手。やわらかな黒髪。白磁の肌。整った容貌。懐かしい、声。

その全てを、覚えている。

「ええ。改めてよろしくね、リドル」

ライムは綺麗に笑って、その手を取った。


(もう一度、運命をこの手に)


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