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  光の下で笑うひと


温室を後にして、ライムはゆっくりと城への道を辿る。道といってもこの時期の校庭は何処も真っ白な雪に覆われてしまっているから、人の踏み固めた道のようなものと言った方がいいかもしれない。空気は相変わらず冷たく、肌を刺すようだったが、外は珍しく晴れていた。

陽光を反射する雪は白く、眩しい程に輝いてライムの視界を霞ませる。
目を細めて歩き続けていると、走り回る複数の足音がした。ふと聞こえてきた賑やかな声に、ライムは足元を見ていた視線をそちらへ向ける。真っ白な雪原に黒地に赤のローブが四つ、忙しなく動き回っている。動く度雪が舞い上がり、それは光を受けてチカチカと銀色に輝いていた。

「……シリウス」

そこにいたのはシリウス達だった。足を止めて立ち尽くすライムに気が付いたジェームズとシリウスが、手を振り声を上げる。

「あ、おーい!ライム!」
「授業終わったんなら、一緒に雪合戦しようぜ!」

手を降る悪戯仕掛け人の姿。
濡れた髪がぺたりと頬に張り付き、緩められたネクタイが奇妙なバランスを保ったまま首元にぶら下がっている。ジェームズ、シリウス、リーマス、ピーター。皆が笑顔でライムを見ていた。
その全てが、日の光を浴びてキラキラと輝いて見えた。

こんなに近く、十歩も歩けば触れられる程の距離にいるのに、遠い。

「────ごめん。私、課題終わらせなきゃいけないから……」
「えっ!ライム?」
「ごめん、先に戻るね」

近づく事が、出来なかった。

背を向けて、足早に城へ向かう。
雪を跳ね上げ、足を取られながらもひたすら城へ。早く、早く、早く。どうしてこんなに離れたいのか、自分でもよくわからなかった。ただたまらなく苦しくて、胸が詰まって、その場から逃れたかった。


白い雪。飛び交う雪玉。あの日と同じ光景。

馴染まなきゃ、忘れなきゃ、だってもうどうにもならないんだから。

「なんで」

思い出にしたいのに、何度も何度も繰り返し思い出す。自分の気持ちを嫌というほど思い知らされる。

思い出に出来ない。

「どうして」

どうして割り切れない。どうして諦め切れない。忘れられないのならせめて、思い出として胸にしまっておきたかった。過去にしてしまいたかった。

リドルはいない。もう会えない。あの日にはもう、どうしたって戻れないのだ。

「わかってる。わかってるのに……!」

もどかしい。歯痒い。私はどうして、こんなに弱い。


走って、走って、走り続けて。息を切らして、疾走する。

目の前の現実を、見たくはなかった。
ただひたすらに、現実から、私は逃げた。


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