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  綻び始めた世界


時計の針が12時を過ぎた頃、真夜中のグリフィンドールの談話室には二つの人影があった。

テーブルには乱雑に広げられた教科書と羊皮紙。その上に置かれた忍びの地図と走り書きした文字が踊るメモの山。深夜だというのに暖炉にはまだ炎が燃えている。普段よりやや弱いそれが消えてしまわないように、ジェームズは横に積み上げてあった薪を放り込むと、ここ最近胸に仕舞っていた疑問を零した。

「……ライムさ、何か、変じゃないかい?」

ジェームズがぽつりと零した疑問に、ソファの背もたれにだらりともたれかかっていたシリウスがくるりと体の向きを変えて聞き返した。

「変?何がだよ」

ジェームズは珍しく難しい顔をしていた。言いあぐねて、口を開いてまた閉じる。ぐしゃぐしゃと髪を掻き、低い声で唸った。

「何が、って具体的に挙げられるわけじゃあないんだけどね。…何だか余所余所しいっていうか、違和感があるっていうか……」
「そりゃ、いきなり環境が変わったせいじゃねえのか?誰だって、目が覚めて周りが年取ってたら戸惑うだろ」
「それはそうなんだけどね…」

その煮え切らない答えにシリウスは眉を寄せる。「何が言いたいんだよ」と不満気に漏らすシリウスを宥めて、ジェームズはテーブルに頬杖をつくと、記憶を手繰りながらぽつぽつと話し出した。

「ライム、最近ピアスしてるだろ?この前、冗談混じりに誰から貰ったの?って聞いたんだ。そしたら、ひどく動揺してね……。まさかそんな反応をされるとは思わなかったから、驚いたんだ」
「ピアス?……ああ、そういやしてたな」
「いつからだろう。前は穴もあけていなかったし、アクセサリーを付けるタイプでも無かったのに、何か気になるんだよね……」
「考えすぎじゃねえの?」

呆れ混じりに息を吐いて、シリウスは天井を仰ぐ。塔の天井は高く、年月を経たそれはくすんだ色をしていた。他の生徒はもう寝静まっている頃だろうか。

「ライムに関する噂を聞いた?」
「……ああ。あの、ふざけた噂か」

急に声のトーンを落としたジェームズの言葉に、シリウスは唸るように低い声で返す。そんなシリウスをじっと見据えたまま、ジェームズは問いかけた。

「……シリウスは、どう思う?」
「ジェームズ!お前まさか、ライムを疑うのか!?」
「違うって!言い方が悪かった。落ち着きなよ。僕は何も、ライムが例のあの人とつながっているだなんて言っているわけじゃあ無いさ!」
「当然だろ!あいつに限ってそれは無い!」

シリウスは立ち上がり、吼えるように声を荒げた。苛立ちも顕に髪を掻き上げるシリウスの誤解を解くようにジェームズは話を続ける。

「そうだよ。ライムは死喰い人に賛同するような子じゃあない。ただ……ただね、何かを隠している。そんな気がするんだ。それが何なのかは、わからないけどね。……シリウスだって、違和感くらい感じているはずだ」
「……そりゃあ、そうだけどよ。でも、いきなりそんな……」
「不自然じゃあないかい?姿をくらますキャビネットに転落した、だなんて。確かにあり得ない事故では無いけれど、僕にはどうしてもライムがあんなヘマをするとは思えない。けれど実際、彼女の姿は二年前のままだ」

ジェームズは冷静だった。淡々とした口調にはライムへの非難や不審は含まれておらず、だからこそシリウスを混乱させた。

「あいつが嘘を吐いている、って?」
「……推測に過ぎないけどね。その可能性は高いと思う」
「でもそれなら、ダンブルドアが黙っていないはずだろ」
「……そうなんだ。だから言っただろう?推測に過ぎない、って」
「結局何が言いたいんだよ」

分かりやすく言えよ と促すシリウスに対して、ジェームズはぽつりと不安を洩らした。

「……危うい気がするんだ。僕らはライムの昔からの友達だし、信頼しているけれど、周りもそうとは限らないだろう?」
「ジェームズ……」
「ホグワーツは安全だけれど、城外の情勢は不安定だ。ライムは編入生だし、出自がはっきりしないから、何らかの繋がりがあるんじゃないかって穿った見方をする奴もいる」
「けどよ、ライムはダンブルドアが後見人だろ?疑う余地なんて無いはずだ」
「本来はね。ただ、今の情勢を見てみなよ。皆疑心暗鬼に陥っている。魔法省ですら、あんな理不尽な尋問をしたんだ。大の大人の魔法使いや魔女にすら、服従の呪文をかけられている人がいるんだから、仕方の無い事なのかもしれないけれど」

勿論、ライムはそれにかかっているようには見えないけれどね、と付け足したジェームズを厳しい目つきで見つめながら、シリウスはぽつりとつぶやく。

「……なら、何で話してくれないんだ」

悩みも不安も、話してこその親友なのに。話せるからこその仲間だ。現にリーマスはその秘密を打ち明けてくれた。例え話す相手が自分達でなくとも、ライムにはリリーだっている。なのにどうして話してくれない。

「そればかりは、ライムにしかわからないね」
「……話すのが友達だろ?」
「君はそうでも、ライムもそうとは限らないさ。そりゃあ僕だって、話して欲しいとは思うけどね」

強要出来る事じゃあないよ と続けて、ジェームズは勢い良くソファーにもたれた。

会話はそこで途絶えた。何とも後味の悪い話だった。その空気をはらうことも出来ず、二人はそれぞれ椅子やソファに身を沈めて思考の海に潜った。

ぱちぱちと炎が弾ける音が、静まり返った談話室に響く。

「話してくれなきゃ、わかんねぇよ……」


納得のいかない顔で、シリウスはそう、つぶやいた。


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