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  ねじ込まれたパズルのピース


朝の大広間は人で溢れていた。
轟々と燃える暖炉の薪。広間はあたたかいが出入りする生徒の数が多いため、扉が開くたび吹き込む風がほんの少し冷たい。長いテーブルの上には朝からたっぷりの料理が並べられており、ポテトの焼ける香ばしい匂いとチキンの匂いとが入り混じって、空っぽの胃にはやや刺激が強かった。
その一画で、ライムは悪戯仕掛け人のメンバーと共に食事をとっていた。

「ええっ!?じゃあライム、僕らと一緒に授業受けられないのかい?」

そんな!と声を上げるジェームズに苦笑を返してライムは答える。

「ええ。さすがにいきなり七年生の授業にはついて行けないし……まだO.W.L.(ふくろう)試験も受けていないから」
「そっか……事故にあったのは五年生の始めだったもんね」
「ええ。N.E.W.T(イモリ)試験なんて受けたら頭がパンクしちゃうわ」

O.W.L.試験の対策ですらあんなに大変だったのだ。いきなり六年生もふっ飛ばして七年生に混じるなんて、とてもじゃないが無理だ。知識も魔力も追い付かない。

「五年生か……残念だなあ……」
「でも、またこうして談話室で話せるわ、ピーター。みんなに勉強も教わらなきゃいけないしね」
「ライム……」
「まさかみんな、授業について行けなくて困ってる私を見捨てたりはしないわよね?」

肩を落とすピーターとリーマスに向かって ライムが小首を傾げておどけてみせると、二人はどこかホッとしたように「勿論だよ」と笑い返した。

「でも、ライムがついて行けない授業なら、他のヤツもついて行けないだろうな」

食後の紅茶を一口飲んだシリウスが意味ありげにニヤッと笑う。

「んー、それはシリウスの教え方次第かな」
「お前最初から教わる気なのかよ」
「その方が効率がいいでしょ?」
「リリーが聞いたら怒るな」
「内緒にしてね」

貸しひとつな、と言うシリウスに苦笑して、ライムは水を飲み干した。

「部屋は元のに戻るんだろ?」
「うん。またリリーと同室よ。ちゃんとベッドは空いたままにしてくれていたみたいだから」
「良かったな」
「うん」

リリーと授業は一緒に受けられないが、それ以外の時間は一緒に過ごせる。それだけでも今は嬉しい。みんなはあと一年で卒業する為、一緒に過ごせる時間は短くなってしまったが、こうして再び戻って来られただけでも良しとしなければ。

「さて、諸君。名残惜しいがそろそろ時間だ」

談笑はジェームズの声で遮られた。その言葉を聞いてライムが時計を見ると、針はそろそろ授業に向かわなければならない時間を刺していた。

「もう?時間経つのはあっという間だね」
「ライムは次、何の授業なんだ?」

手元に広げた時間割を覗き込むシリウスに、今日の科目を指差しながらライムは答える。

「えーと……魔法薬学、かな」
「ゲッ……もしかしてスリザリンと合同か?」
「そうみたい」
「舐められるなよ、ライム。一泡吹かせてやれ」
「初回から無茶言わないでよ!減点されちゃうわ」

笑いながら焚き付けるシリウスに反論しつつ、ライムは皆と共に席を立ち 荷物を手に大広間を後にする。

轟々と薪が燃える暖炉のお陰であたたかい談話室や大広間とは対象的に廊下は隙間風が吹き込み、空気は氷のごとく冷たかった。身を切るような風がぶつかる度に窓ガラスがガタガタ鳴り、その音が廊下中に響いている。

地下に下りる階段の前まで来てから、ライムは足を止めて後ろを歩くジェームズたちに向き直った。

「じゃあ、私行くね」
「早速別々か……。わかってはいても、やっぱり寂しいね」
「リーマス……」
「ああ、ごめん、ライム。僕らより君の方が不安なのに」
「ううん。確かに私も寂しいけれど、みんながそう言ってくれるのって、何だか嬉しいよ」

また昼に会おうねと言い合って、ライムはひとり 地下へと向かった。


****


地下の空気は一層冷たく、凍えそうに寒かった。身を縮めて早足に廊下を抜けると、教室のドアが見えてくる。駆け込むようにしてドアを開けると、ざわざわしていたおしゃべりが途端に止んだ。

部屋には既に多くの生徒が到着していた。皆一様にライムを興味深そうにジロジロと眺めて、周りの友人たちと小声で囁き出す。

ため息を飲み込んで、ライムは空いている席を探し、ひとまず目に付いた後ろの方に座った。

五年生には一応顔見知りや話した事のある生徒もいるが、親しいと言う程では無い。居心地の悪さを誤魔化すために鞄から引っ張り出した教科書を開く。ぱらぱらとめくって見たが、その内容はどれも見覚えのあるものだった。

知っている。だってどれも習ったのだから。────過去で。

蘇るリドルの声。すらすらと述べる解説とページを捲る指先。そのどれもが、ここには無い。全て過去に置いてきてしまったから。

ライムの隣に座る者はいない。ぽっかり空いた空席に、ライムはほんの僅かに顔を歪めた。

「……そっか。もう、誰もいないのね」

リリーやジェームズ、シリウスにリーマス、ピーター。
リドルも、リタもジゼルもロゼッタも。

ここには誰もいない。

「……いつか慣れるわ」

寂しさも、切なさも不安もいずれは消える。つらいのはまだ、時間が経っていないから。

そう、言い聞かせて。

「……もう、どうにも出来ないんだから」


囁き声は、止まない。


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