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千々に千切れる

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「ぐっ…」
息の合間に喉を押し潰したような声が漏れる。掻きむしった胸元のシャツは皺だらけでワインレッドのネクタイは最早首にぶら下がっているだけだった。脱ぎ捨てたジャケットはくしゃくしゃのまま床に落ち、汗で濡れて張り付いた前髪を払うと形の良い額が覗く。
かつて髪と同色だった瞳にはその面影も無く、色素を失い血の赤が透けて暗闇の中でぎらぎらと輝いている。元々青白かった肌は今では紙のように白く、人というより人形のような質感だった。
魂を引き裂く行為は徐々にリドルの身体を蝕んだ。箱がひとつ増える度にひとつ何かを失ってゆく。それはリドルの整った鼻筋であったり美しい輪郭であったり黒曜石の瞳であったり、つまりは彼の人間らしさであった。
幾らだって差し出す。何だって投げ出す。それが命以外なら。不死と引き換えにするのに惜しむものなど無い。名前を捨てた時に過去の全てを捨てると決めたのだ。トム・リドルなんて何処にもいない。始めからそんなものはいらなかったのだ。だからこれでいい。これがいい。魂なんて幾らでも引き裂ける。肉体的な苦痛など精神的な苦痛に比べれば耐えることは容易い。死から遠ざかることができるなら、他のものは何もいらない。


(リドル/千々に千切れる)

分霊箱を作った時のリドルの妄想。苦しむ姿はきっと最高に色っぽい


 

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