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仮面

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息が詰まって吐きそうだ。
ここには人が溢れている。人の念も溢れている。ぐちゃぐちゃなそれを皆隠してはいるけれど、僕のように完璧に隠せてはいない。感情が渦巻いた中にいるのは僕にとって途轍もない苦痛だった。

仮面を被っているのは、何も僕だけじゃあない。けれどそのどれもが不完全で歪で中途半端なものだった。被る仮面は完璧で無くてはならない。完璧だからこそ意味がある。仮面を被っている事が他人からわかるのならば仮面なんて被る意味が無いのだ。仮面は素顔と見分けがつかぬ程精巧で自然なものでなければならない。薄皮一枚の薄っぺらな仮面。限りなく素顔に近く、けれど決して素顔にはなり得ないもの。
この仮面を脱ぎ捨てた時、果たして何人の者がそれが僕だと気付くのだろう。
トム・リドルは架空の存在だ。創り上げられた虚構の存在。誰もが羨み誰もが憧れ誰もが心の奥底で嫉妬する、完璧な優等生。本当はそんな生徒は何処にもいないのに、いなくなるまで誰も気付かない。考えもしない。僕の中に理想を見ているだけで そこに仮面を脱ぎ捨てた本当の僕がいることを思いもしないから。


(リドル/仮面)


 

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