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この言葉に 心はいらない

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「トムが好きなの」
顔を紅潮させて熱っぽい潤んだ瞳でまっすぐにこちらを見つめて思いの丈を語る少女は世間一般の基準に当てはめるのならば綺麗と言われる顔立ちをしていた。
お決まりのシチュエーションにお決まりの台詞にお決まりの結末。一連の流れはもう数えるのも馬鹿らしく成る程幾度も経験したもの。その声の甘さも緊張を孕んだ空気も 何もかもが陳腐な芝居のようでリドルは気分が悪い。今ならばきっと少女が次に何を言うか一字一句違わずにぴたりと声を揃えて口にすることが出来るだろう。何より面倒なのは、自分がその陳腐な舞台に無理矢理出演させられているということだった。
傍観者の立場ならば甘んじて受け入れてもいいが、自分が陳腐な台詞を言わされる立場に立たされるのだけはどうにもいただけない。けれどどんなにリドルがそれを望まなくても、こうして自分を舞台上に引きずり出す少女は後を絶たず リドルは今日も台本通りに同じ言葉を口にする。
「ありがとう。気持ちは嬉しいよ。けれどすまない。僕は誰かと付き合うつもりは無いんだ」
様式美 という言葉が一瞬頭を過るが、直ぐに否定する。これはそんなに良いものでは無い。
心にも無い言葉を口にするのなんて容易い。演じるまでも無く 口を開けば息を吐くようにするすると、言葉は自然とすべりだす。
明確な拒絶はしない。多少なりとも相手の心を此方に残しておいた方が何かと有利に働くからだ。けれど明確に線を引く。近付かれるのは不愉快だから。
気持ちを利用する事に今更良心なんて痛まない。使えるものを使って何が悪い。利用出来るものを適切なタイミングで使うことこそが正にスリザリンの持つ“狡猾さ"。気付かぬ方が悪いのだ。嘘を吐くリドルを非難する者は愚かだ。嘘を非難するより先にそんな本心に毛筋ほども気付かぬ己の愚鈍さを呪えばいい。


(リドル/この言葉に 心はいらない)


 

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