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01 夏の恋は


空は青く。
雲は白く。
太陽はギラギラまぶしく。
ジリジリと焼ける肌。
ミーンミーンと生き急ぐように鳴く蝉。
それが夏。 夏なんて大嫌いだと思っていても、日に日に高くなる空や薄くなる雲をみて秋を感じてしまうとなんだか切ないものがある。 大きなお祭りが終わってしまうようで。 …のはすなのだが。

「これはどーゆーコトアルかっ!?」

飲んでいた麦茶のグラスが叩きつけられる音と共に怒鳴り声が部屋に響く。

「え!?どうゆうことって急にどうしたのさ、神楽ちゃん。とりあえず落ち着いてよ」

僕は洗濯物を畳む手を止めて彼女の方に駆け寄っていった。どうせ大したことじゃないんだろうけども。あの大人は当てにならないから。

「これが落ち着いてなんていられるかヨ新八!だからオマエはメガネアル」

おいおいおい。これでも一応心配してるんだからね、なのになんでメガネバカにされないといけないんだ。酷くね?僕の扱い酷くね?

「…つーか、メガネ関係ないじゃん?!メガネ馬鹿にすんなよコラァ!!」
「おめーらうるせーよ。銀さん若くねーからこの暑さでバテてんのよ、なにもしたくねーよ。大体ね、おたくら10代とは違うんだよ。三十路に片足突っ込んでるからね銀さんは」

しかも二日酔いだしオゲェェェと最後に付け加えた。

「いやいやいや!それ二日酔いでしょう?!夏バテ違うから、っつうか、大人なんだから酒の量くらい自分で調整してくださいよ!!」

この暑さにも関わらずこの部屋には夏の救世主「クーラー」なんてものは存在しない。高すぎて買えないし電気代もかかるし。代わりにレトロな扇風機がウィーンウィーンと壊れそうな音を立てて首を降り続けている。
ただでさえ二階は暑いというのに、さらに部屋にむさいおっさんとメガネと怪力娘とでかい犬の3人と1匹がいるわけだから、ものすごく暑い、サウナ顔負けの蒸し風呂状態。
っていうかね、クーラーなんて文明に慣れちゃ駄目なんだよ。体壊すからね、寝冷えするからね。
夏は元から暑いものなんだ。 暑い暑いいうから暑いんだ。 …あー暑い。

「っていうか、一番大変なのはさっきからしゃべり続けている僕ですよ!暑さ倍増ですよ。突っ込み役は大変なんですよ、こうボケが二人もいると、手に負えないですよ、最早若いとか関係ないから!!」
「突っ込み役って大変アルなー。よかった、私ボケで」
「オィィィィッッ!!元はと言えば神楽ちゃんでしょーがっ!!」

そうだ忘れてた。
元は彼女がいきなり叫びだしたことから始まったのだ。 とりあえず一呼吸おき、気持ちを落ち着かせた。そして改めて何があったのか問い質してみる。

「やっと本題に入ったアルか。お前のつっこみで終わっちゃうかと思ったアル」

好きで突っ込んでいるわけじゃねーんだよぉぉ!!お前らのせいだヨォッ!! さっさと本題に入ってくれ、お願いだから。

「…アル?」

さっきまでの勢いはどこに行ったのか、すこしうつむき加減になった彼女は聞こえないくらいの声でそう言った。

「え?ごめんよく聞こえな…」
「私の青い空と白い雲はどこアルか?!」
「?どういう…」
「もう8月ヨ?なのに毎日毎日曇りネ。かき氷もおいしくないアル、かき氷は青空の下で食べるからうまいのに、もー我慢できないアル!」

こんな日はオサレにあんみつでも食べたいけど、お金ないアル。と最後に銀時を横目に見ながら呟いた。
かき氷とかあんみつとかは良くわからないけど、確かにここ最近は曇りばかり。
夏の風物詩の入道雲だって見ていない気がする。 梅雨は早々に明けたものだと思っていたが、その後も延々と曇りの日が続いた。 どこかの地域では今年の梅雨明けはなかったことになっているらしい。
そして今日も例外なく外は厚い雲に覆われていて、いつ雨が降ってきてもおかしくはない。湿度もかなり高いのだろう、体中がベタベタしていて正直不快指数としては100%だ。

「確かに、毎日曇りで気分も滅入るよね。今年は冷夏になるみたいだってお天気おねえさんがいってたよ」
「冷夏ってなにアルか?夏は炎天下でカキ氷だって相場は決まってんだよコノヤロー!」

いやいや、神楽ちゃんは炎天下はダメでしょう、確実に倒れるから。
「あーあ。私だって<ひとなつのこい>してみたいアルゥゥゥ」

ハィィィィー?どっからどう転んで<ひとなつのこい>になったワケェェェ?
つーかひと夏ってなに? なんか危なくない? まだ早くない? だめだめだめ、お母さん許しませんから。 っていうか僕だってしたいよコノヤロー!!
突然の爆弾?発言に驚いてしまい、ちょっと意識が遠のきかけた。 そのためその後の

「この間のドラマの再放送でやってたネ、なんだかかっけーアル」というセリフは届いているはずもない。
「ちょ、かぐ…」
「いけませーーーんッッッ」

どこかに行ってしまいそうな意識をものすごい勢いで呼び戻し彼女に話しかけようとしたが、それは叶わず。
ちゃっかり話は聞いていたわけだ。二日酔いでヤバイんじゃなかったの。

「駄目だぞぅー、神楽!ひと夏の恋なんて危ないッッッッ!お父さんは許しませんッッッ!」
「大体ね、夏に出会う男なんてロクなーもんじゃぁねえよ?海とか祭りとか花火とか、水着とか浴衣とか!大体プラス5の補正がかかって見えちゃうんだからな?ちなみに冬のスキー場にも同じことがいえるから、覚えておくよーにッッ!」
「そんだからな、そこのメガネの新八だってメガネとって水着でも着たらもしかしたら3点くらいの男に見えるかもしれない!もしかしたらカッコよく見えちゃうかもしれない!恋に落ちちゃう気がするかもししれない!わかったかァー?神楽!」
「でも銀ちゃ…」
「ってオイッ!僕が3点ってどういうことだよ?!まさかのマイナススタートなわけ?!」
「「そーゆーところがだめだな」アル」
「二人してハモってんじゃねーよ、僕傷つきましたからね」
「ま、そういうことだからな神楽、変なのに付いて行くんじゃねーぞ、たまに忘れそうになるけどお前まだまだ14歳のカギなんだからな。中2なんだからな」
「銀さんもうちょっと言い方考えてくださいよ、まぁ、銀さんの言うことはあながち間違ってないよ。気をつけないとダメだよ」
「…私ちょっと出かけてくるアル」

そう言うとスタスタ玄関の方に歩きだし、外に出て行ってしまう。 ふと彼女が居なくなったソファを見ると愛用の紫色の傘が置きっぱなしだ。

「神楽ちゃーん!傘忘れてるよー」

階段を降りたところにいた神楽ちゃんを呼びとめるが、彼女は振り向きもしない。

「今日は曇りだからいらないアル」

そう言い残して走って行ってしまった。

「…っていうか、雨降りそうなんだけど。知らないよーもう」

取り残された声が空しく響く。

「神楽ちゃん、どうしたんですかね…」
「ほっとけよ、新八。あのくらいの女の子はなーいろいろあるんだよ。難しいんだよ。ちょっと間違えると危ない方向に行っちゃうから。…まぁ、雨でも降ってくれば帰ってくるだろうよ」

っていうか、今この時が間違って危ない方向にいってるときなんじゃないの。 もう、知らないから僕は。

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