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そこにあるもの


「あーねみぃ…死ね土方」
「寝言は寝てる時に言えよ、総悟ー」
「いや、寝言じゃねぇです本音ですから」
「いい加減にしろよー」
「…しかし本当に来るんですかぃ?」

午前6時前、かぶき町の公園の整備されたところからはちょっと離れた茂みの木に隠れている男ふたり。何が悲しくて野郎と朝を迎えなければいけないのか。朝とはいえ季節は夏、じっとしているだけで汗が滲むのに更に嫌な野郎が側に居て暑苦しいことこの上ない。

「あぁ、最近この辺りでラジオ体操している桂が頻繁に目撃されている」
「しかし何でったってラジオ体操」
「テロリストの考える事はわからねぇよ」
「…同感でさァ」

そうこうしているうちに公園の広場に夏休みのラジオ体操のスタンプを首から下げた子供が集まり始める。きゃっきゃと騒ぐ子供たちの声が半分寝ている頭に響いて痛い。
あの桂の事だ、変装しているかもしれないと注意深く見ているとその中に見つけてしまった。

「…何やってんだアイツは」

オレンジ色のお団子頭じゃなくて…ボサボサ頭。なにあれ寝起き?

「あれチャイナ娘じゃねぇか?ラジオ体操流行ってんのか?」
「さぁ」

*

「ちっ、今日はハズレか」

結局桂は現れなかった。そもそも指名手配中のヤツがのラジオ体操にくるはずもないだろう。長髪の黒髪なんて珍しい事でもない、結局はガセネタだったってことか。そうとなったらここには用はない、あとは帰って寝るだけなのだが…。

「土方さんは先に帰っていてくだせぇ」
「…チャイナ娘からかうのもいいけどよ、程々にしろよ。毎回町中ぶっ壊されちゃあ叶わねぇよ」
「別に…そんなつもりはねぇですよ」


誰も知らないふたりの秘密。実はチャイナとはちゅーしたりする関係だったりする。
目の前に愛おしい彼女がいたらそれは手を出したくなるだろう、それが男心ってもんだ。だけどたまにそれが一方通行だったりすると拳が飛んできたりデカイ岩が飛んできたりして結果的に街中がちょっと壊れてしまうだけのこと。よくカップルがいちゃいちゃしながら喧嘩してる馬鹿っぽいアレだと思ってくれていい。
見失ってしまったチャイナを探そうとあたりを見渡すとすぐにベンチに男と居るのが見つかった。
え、男って。
意識が飛ぶのを必死にこらえて隠れるように先ほどの茂みに駆け込んだ。
誰だあれ。バクバク鳴る心臓うるさいし変な汗も出てきた気がする。深呼吸ひとつしてもう一度そのベンチを見た。男といっても自分が知っているような天パとかメガネとかではない。よくよく見ると男じゃなくて子供だった、年はチャイナよりも5つくらい下だろうか。

「…―アル」

遠くて全然聞こえないがチャイナは終始笑顔で時折頬を赤らめてさえいた。なにあの笑顔。
俺の前じゃあんな顔しないくせに。別にして欲しいってわけじゃなかったけど、ツンツンがチャイナの魅力のひとつであるとも思っていたけど。
なにこのモヤモヤ。俺の知らないアイツを知る奴がいるなんて。

「…」

目を背けるように芝生の地面に腰を下ろすと草の青い匂いが鼻をくすぐる。心臓に悪すぎるだろう、少なくとも徹夜明けのナチュラルハイの身体にはちょっと辛い。
だめだ。帰って寝よう、俺にしてはなんて謙虚な考え。なんてそう思ったとき。

「お前さっきからなにコソコソしてるアル。気持ち悪いネ」

突然降りかかる声と目の前に広がる鮮やかなオレンジ色。

「…てめえこそガキに混じってラジオ体操とはねェ」
「…お前もストーカーだったのかヨ」

お前も、という「も」は誰とひと括りにされているんだろう。
隣にちょこんと腰を下ろしたチャイナが身を寄せてくる。肩を引き寄せボサボサ頭をとかすように撫でると俺の腕に頬を擦らせてきた。

「ったく…髪ボサボサじゃねーかよ」
「…パン屋のオヤジが最高だったアル」
「ガキが夜更かししてんじゃねぇや…目の下真っ黒だぜィ」

そういいながらチャイナの白い肌にくっきりと残る目の下のクマに指を滑らせた。そこを擦るとびっくりしたようにチャイナが俺を見上げてくる。上目使いのその目、ヤバイから。何度も言うがナチュラルハイの俺は、朝だからとか公園だからとかそういう考えは持ち合わせていない。
そのまま手のひらを頬に添えて、柔らかい唇に自分のそれを重ね合わせる。ラジオ体操の後のせいかチャイナの頬は少し火照っていて温かい。しばらくその柔らかさを味わって小さな隙間から舌を滑り込ませて絡め合わせると朝に似合わない湿った音が耳を支配する。

「…んっ…」

片手でチャイナ服の止め具をはずすとはらりと布が捲れて白い鎖骨が露になった。そこに吸い付くように口付けると赤く跡が残る。

「…ちょっ!…何するネ!」
「ちっと黙ってろ」

そのまま鎖骨から胸ギリギリまでの辺りに赤い跡をいくつか残した。
そして深く唇を重ね合わせて小さな身体を腕の中に閉じ込め、その余韻に浸る。

「…真っ赤アル」
「そうだねィ」

はだけてしまった服を元通りにしてやると、チャイナはちょっと不機嫌そうにそう言った。

「…ソウダネィ、じゃないアルッッ!どうしてくれるヨ。銀ちゃんに見られたらどうするヨ!」
「なんでそんなところ旦那に見せるんでィ、さっきのガキといい全く危ないったらありゃしねぇよ」
「こんなところで盛るお前と違って私は健全アル。さっきのあの子も健全なお付き合いアル」
「盛るって…ただちゅーしただけじゃん」
「…えろいちゅーだったアル」
「…ほんとはここに付けたかったんだけど」

そういってチャイナの首筋を指でなぞると、くすぐったかったのかチャイナは身をよじらせた。

「っ!!!馬鹿じゃね?!お前バカじゃね?!信じられないアル!」
「だから胸で我慢したじゃねーかよ」
「なにを偉そうに言うアルかっ!!」

立ち上がりそうなチャイナの腕を掴んで倒れこむ身体を自分の上に座らせて腰に手を回して服の上から胸にキスを落とす。

「これは俺のもんだって印でさァ」
「お前…バカだろ」

そういってふいと横を向いてしまうチャイナの顔が赤くて、あの笑顔も良かったけどやっぱりツンツンの方が好きだなんて思っている俺は本当にバカなのかもしれない。

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