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no title1



これは何かの間違いか。
そうだよな、そうなんだよな?
俺がちょーっと酔っぱらっただけで、すこーし幻聴的なものが聞こえただけなんだよな。
いやぁーこのくらいの酒で酔うなんて銀さんも年取ったじゃぁねえか。
年は取りたくねぇな、うん。
…やっぱり何かの間違いだよな、うん。
お願いだから間違いだと言ってくれ。

「…」

10分前まで可愛い娘だった神楽はもういない。
否、俺が気付かなかっただけでずっといなかったのかもしれない。
今日は真撰組の毎年恒例暑気払いだとか。なのに何故か俺と神楽と新八も呼ばれかるーい気持ちで来てみれば。
なんて事は無い、やっぱりこれは罠だったのだ。
こいつらが俺らになんの見返りもなくタダ酒なんて振る舞うはずがあるわけなかった。
****
「旦那方、もしよかったら泊まっていってくださいよ。部屋も用意してあるんで」

夜も更けそろそろ宴会もお開き、さてそろそろ帰るかというところ。絶妙のタイミングで気持ち悪いくらいにニコニコした山崎に声をかけられた。

「いやー折角だけど帰ぇるわ」

まぁ結構飲みすぎた感はあるけども、帰れないくらいではない。
というかそもそもコイツらがこうやって俺らを呼んだことになんらかの裏があるんじゃねーかって思うわけで。だからさっさと帰りたいわけで。

「そんなこと言わずに、遠慮せんでいいですよー」
「ぅおーい神楽ァー新八ィーそろそろ行くぞー」

くるっと振り返ってみるとそこにいたはずの神楽がいなかった。宴会開始にはその辺で食いまくってたのに。
そしてこうやって神楽を探す間もこの山崎が付いてきて鬱陶しくて仕方なかった。やっぱりこのしつこさ、なんか企んでるだろ。絶対俺ら寝てる間に亡きものにしようとかそんなこと考えてるだろ。
こんな非常事態にアイツどこいきやがった。はやく帰らねーと俺らに明日は無いっていうのに。

「ホラ、ちゃんと歩けてないですよ。ささ、あちらの部屋に」
「気ィ使うなって、つーか銀さん自分ちの枕じゃねぇと寝れないのよ。神楽もそうだよー?アイツ押し入れのなかじゃねぇと寝れな―」
「…」

やっと見つけた神楽は部屋の隅にいた。
座布団重ねてたその上に。
すーすーと規則正しい寝息をたてて。

「…いやぁー気持ち良さそうですね、チャイナさん。さ、旦那こっちで」

ってオイィィッッ!
何寝てんの?!俺はオウチに帰りたいんだよ!これじゃぁコイツらの思惑通りじゃーねェか。

「…んふふふ」

良い夢でも見ているのだろうか。
寝ながらも笑う神楽はいつもの神楽じゃなかった。
それはとても幸せそうで、俺の知らない神楽だった。

「あれ?コレ誰かが掛けてくれたのかな」

爆睡中の神楽に掛けられていたのは布団などという気の効いたものじゃなくて、コイツらと同じ真っ黒い上着だった。いや、同じなどではない。地味な山崎らが着ているようなものじゃなくて、神楽がすっぽり包まってしまうようなちょっと丈が長めのもので。
これが誰のかなーなんて言わなくてもわかるから。

「これってもしか―あ、」

あ、じゃねぇよ。途中でやめんな。言いたい事あるなら言ってもいいんだぞ、俺怒らないし。全然!怒らないし!
そしてこっち見んな。俺に答えを求めるなッ。
つーか気持ち良さそうにねてんのこのクソガキ。なんでそんなに幸せそうなの?!今の状況をみろよ。ちょっとは気配とか感じて起きてみろよ。
お前狙われてんぞ。
どっかのドSに狙われてんぞ。
ねーわ。
やっぱりこんな危ない場所に泊れるワケねーわ。

「…じゃぁ神楽おぶって帰るわ、世話になったな」

浸食される前に剥ぎとってやろうとそのドス黒い上着に手をかけると、丁度タイミング良くコロンと寝返りをうちやがる。
コイツ本当は起きてんじゃねーのか。

「ふふ」
「オイ、神楽いい加減に起き…」
「…そーごの匂いがするアル」
「…」
「…あの…だ、旦那…」
「…ォィ、山崎くーん。今テメエなにか聞こえたか?」
「い、いや何も。なな何も聞こえませんでしたよ??ね!旦那!?」
「そうだよなァッ!何も聞こえなかったよなッッ?!」
「…ん―ふっ。…ふふ…くすぐったいアル…」


いーーーーや!いやいやいやいやッッ!!誰もくすぐってねえから!
つーか、なに!どんな夢?!
つーか、誰に?!
だ・れ・に!!!
誰にくすぐられてる夢を見てるんだこのクソガキはァァッ!
つーか、匂いって何!汗臭いとかそんなんじゃなくて?!

お願い。
お願いします!
お願いだから違うと言ってくれッッ!300円あげるから!!

「いやァ、良く寝てますねィ」
「「!!」」

背後から聞こえるドス黒い声。振り返るとその声とは裏腹に白いシャツが眩しかった。
そしてドス黒沖田はよいしょと神楽の隣にしゃがみこみその寝顔を覗き込む。
っていうか、近い!神楽に近すぎだッッ。
俺だって、起こしちゃいけねぇと思って少し離れたところにいるってのになにやってんの?!

「おーい、沖田君。オメエうちの神楽になにやってんの」
「気持ちよさそーに寝てたんで、風邪引かないように掛けてやっただけでさァ」
「こんのクソガキッッ!そんなんで神楽狙おうったって無理だから、俺が許さねーから!!」
「許すも何ももうチャイナは俺のもんなんで、安心してくだせェ」
「ぶっっ!!!なにそれ意味わかんねーしッッ!安心って何が!!オメエなんかで安心できるわけねーだろッッ」
「ちゃんと責任はとり―」
「それ以上いうなァァァッ!」
「じゃー、旦那は別の部屋用意してあるんでそっちでゆっくりと」

そういってシャツだけは真っ白なドス黒ドSに神楽は連れ去られてしまったのだ。
あぁ、なんか疲れた。
良く考えればここまで騒いで俺恥ずかしくね?なんか過保護ーみたいで恥ずかしくね?
良く考えれば意外とお似合いなんじゃね?うん。
若い者同士よろしくやってればいいと思うよ、うん。
寝かされてるとはいえあんな幸せそうな神楽をみたら駄目とは言えねえよな、うん。
大人になろう。快く旅立たせてやろうじゃないか。

「…」
「だ、旦那?あ、あの、俺も良く知らなかったんで…沖田さんからは旦那には泊ってもらうようにってしか―」
「山崎、あそこでくたばってるうちの新八とおめぇんとこのマヨ臭いヤツ叩き起こしてきてくれる?」
「…へい」
「それと酒も」

****
明日の朝は色々覚悟をしないといけないだろう。
とん、と部屋の襖を閉めて大きく息を吸う。
騒ぐ旦那を無視して半ば強引にチャイナをあの場から連れ出してしまった。いや、もともと連れ出すつもりではあったけどもっとこっそりするつもりだったけど。
だけど。

そーごの匂いがするアル。

いくら寝言とはいえあんな甘えた風に言うチャイナは初めてみた。それに普段は名前で呼んでくれと言っても呼んでくれやしない。
それにムラムラ、邪な気持ちが膨らんでしてしまうのは仕方の無いことじゃないだろうか。いや、もともと邪な気持ちはあったけど。
…さぞかし夢の中の俺は良い思いしているんだろう。

「ん…」

寝ているチャイナの前髪をすくう様にかきあげると身を捩らせて。吸い込まれるようにその白い頬に口づけるとパチッと瞳が開く。

「おはよ」
「んぁ、お、沖田?…どうして?」
「俺の部屋。…お前凄い勢いで寝てたぜィ」
「マジでか」
「うん。良い夢でもみてた?」
「…覚えてない。…っていうか近いッ!離れろヨ」

一瞬の間をあけてそう答えたチャイナの顔はみるみる赤くなっていって。
これはきっと覚えているんだろう。
あぁ、夢の中の俺が羨ましい。
離れろと言われて離れる馬鹿は何処にもいない。
チャイナの横に寝転んで頭の下に腕を置いてそのまま抱き寄せると寝起きの所為かその体はすごく熱かった。

「なァ。そーご、って呼んでみて?」
「なッ!!む、無理アル!…あ、銀ちゃん!銀ちゃんと新八はどこ―」

そう言うチャイナの口を口で塞いでしまえば更に熱くなって。

「…く、苦しいネッ!」
「言うまで離さなねェから」

【おわり】
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