「こっち」
そういうとチャイナは大人しく付いてくる。
なるべく物音を立てないように階段を上がると俺の部屋がある。いつもの夜風景のはずなのに、今隣にチャイナが居ると言うだけで全然違う場所のように見えてしまうから不思議だ。
ぱたん、とこれまた静かにドアを閉めると緊張が走る。
今のこの流れなら言える気がする。チャイナには俺だけを見ていて欲しい。そんなわがままを。
「どうしたアル…?」
黙っている俺を警戒したのかチャイナがそう聞いてきた。
すぅ、と深呼吸をして心をきめる。
「…好き」
そして衝動的にチャイナに抱きついた。ふわっと香る甘いチャイナのにおい。それだけでクラクラになる。
腕の中で微かに震えているチャイナの髪の毛に触れてそのまま頬まで滑り落とすとそこで初めてチャイナが俺を見た。何も言わずにただ俺を見るその瞳、そこには俺だけを映して欲しい。 ただそれだけ。
何も反応がないチャイナに少し顔を近づけてみる。
そのまま唇を重ねてしまえばもう自分から止められる術はない。
後頭部をしっかり抑えて強めに重ねれば空気の入る隙間なんてなくなってしまう。
「…ん」
聞いたこともないような艶っぽい声に理性はサヨウナラ。
声が漏れたそこに舌をねじ込むとチャイナの体がぴくっと反応した。だけどそれに気づかないフリをして更に奥深くに侵入しチャイナのそれに絡める。ざらっとした生暖かい感触に背筋がゾクゾクして堪らない。口内に溢れるのはふたりぶんの唾液、それが絡み合うたびに湿った音となり部屋に響く。
「ちょっ…やめて…ヨ」
その言葉と共に唇が離れていきそこから銀色の糸が引いた。いままで触れ合っていた場所には冷たい空気が流れ込み、ひやっとする。
「チャ―…」
「お、お前まだ酔ってるアルか?…人をからかうのもいい加減にするヨロシ」
余韻に浸るまもなく現実に引き戻される。目の前のチャイナは一歩身を引いたまま俯いてそういった。無理矢理にしてしまったのは言い訳できないけど、酔ってはいない、からかってなんかももちろんない。
「さっき言ったの、聞こえなかった?」
「だからそれがッッ―…」
「好き、神楽が好きなんでィ。誰にも渡したくない」
一度言ってしまえば結構大胆にもなれる。再び肩を引き寄せて腕の中に閉じ込め耳元に唇を寄せながらそういうとチャイナの体が震えた。
「…」
「…聞こえた?」
「き、聞こえないアル…」
「聞こえるまで何度も言ってやろうかィ?」
「…アホ。お前流されすぎアルヨ」
流される。この雰囲気に?そうなのかもしれないと思うがそれはそれで別に良いんじゃないだろうか。こういうのはノリとタイミングじゃないだろうか。
「てめえだってさっき流されそうになったじゃねーかよ」
「違う!」
そういうと顔を赤らめながら腕で思いっきり体が突き放された。 っていうか俺だけ好きって言って、好きとも嫌いとも返事がもらえないなんてなんか凄く恥ずかしいんだけども。完璧に俺だけ舞い上がってるじゃねーか。
「違わないだろ」
「私、酔った勢いとかそういうのいやヨ…」
「俺は別に酔ってないけど」
「私も酔ってないネ」
「じゃ、いいじゃねぇか」
「…」
ここまでしておいてなんだけどやっぱり見込みなかったってことなのか、やっぱり『銀ちゃん』には敵わなかったってことなのか。 それだったらそれでさっさと言ってくれ、お願いだから。
「…」
「…」
どのくらい経ったんだろう。
自分で作ってしまった沈黙だけど耐えられない。 寒いはずなのに喉がカラカラしてきた。
「俺ちょっと飲みもんとってくるけど…何飲む?」
「…ま、待つネ!」
そういうと部屋を出て行こうとする俺の服の裾を掴んだ。その腕の先には先程よりも顔を真っ赤にしたチャイナが目を潤ませて俺を見ている。
…どんな拷問なんだろうこれは。 襲われたいのか、コイツ。
「…なに」
「…わ、私も…わ、わた…」
「…」
「…私も…す…アル…ッッ!」
「…」
「…オイ、聞いてんのカヨ…」
「聞こえないなァ」
「…このドS」
「さっきのお返し。ちゃんと聞こえるように言えよ」
「…お、お前の事…す、好きアルッ!…聞こえたかコノヤロー…」
服の裾を掴む手を取り再び腕の中に閉じ込めて抱きしめる。大人しくその場に収まる小さな体は今日はじめてその手を俺の背中に回してきた。俺の胸に顔を埋めてその表情はみえないけど、耳まで真っ赤にそまっていて、もう可愛いすぎる。
「聞こえた。…すっげぇ嬉しい」
気づけば外が明るくなり始めていた。