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06 君と僕の絶対領域


「じゃあナ」
「あぁ」

そう言ってチャイナを見送る。 部屋に戻りこたつにもぐり込んだ。 つけっぱなしだったテレビはいつの間にかドラマの再放送から夕方のニュース番組に変わっていた。
それにしても。 チャイナが居なくなって、静かになった部屋がすこし寒く感じる。
≪ふざけんなっ!んなことする訳ねーダロッッ≫
初めて顔を赤くしたアイツを見た気がする。いつものキスはスルーされてるのに。
アイツはどう思っているんだろう。 …嫌いだったら…キス拒否られるよな、普通は。 …嫌いだったら部屋に上がり込まないよな、普通は。
そう自分の都合のいいように解釈してしまう俺は、近藤さんに負けずポジティヴシンキングなのかもしれない。
好きと言えず、このままでもいいかと思ってしまう。 だけど思いっきり抱きしめたい、もっともっと欲しい。アイツのソプラノ声で俺の名前を呼んで欲しい。
好きだと言ったらアイツはどんな顔をするのだろうか。

**************


「じゃあナ」
「あぁ」

そう言って沖田の家を後にした。 おもいっきり自転車をこぐ。ここから銀ちゃん家まではそう遠くない。

「…はぁっ」

吐く息が白い。寒いはずの空気がひんやりと気持ちいい。 まだ胸がドキドキしていた。 さっき口元のアイスを指で拭き取られ、あろうことかそれをアイツは舐めやがった。 キス魔だけじゃなかった。これはセクハラだ、セクハラ以外のなにものでもない。奴にはセクハラオヤジの称号もくれてやろう。ありがたく思え。

どうしてこうも私の心を乱してくれるのだろう。 …キスだって慣れるのに時間がかかった。はじめは恥ずかしくてドキドキして仕方なかった。
こういう関係はなんと呼ぶのだろうか。
初めはもしかして、なんて自惚れたりもした。だけどそれはすぐに否定へと変わる。
キスする以外はまるで男友達のように扱われるのだ。口が悪いのもすぐ手が出るのもソレと同じ。ほかのクラスの女の子と話すときのような笑顔を私は見た事ない。話に聞くと沖田は優しい奴らしいがそんなの感じたこともない。
私がそんな素振りを見せた瞬間今の関係が崩れるかもしれない、という事に臆病になってドキドキを胸の奥にしまい込んだ。 なにもないフリをする。大人っぽく振る舞う。そのうち飽きてくれるだろうと。 毎日が動機息切れとの戦いでなんど救心を買おうと思ったことか。 でもそろそろ限界。 胸が苦しくて爆発してしまいそう。
私に触れないで。 期待させるようなことはしないで。 そう頭では思っていても触れてくる体温を振り払えない。 キスされる度淡い期待を抱いてしまう。 この気持ちを捨てることはできない。
いっそ告げてしまったら楽になるのだろうか。もう戻れない覚悟を決めて。

「せつないアルな…」

すっかり日が落ちた帰り道。火照っていた身体はすっかり冷えきって体感温度は真冬のソレ。空を見上げると星がまばらに輝いていた。 あの坂道を登りきると家に着く。 それまでにいつもの私に戻らないと。あのバカ天パには心配かけたくない。
私が思いを告げたらヤツはどういう顔をするのだろう。

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