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03 夏の恋は


「暑いからカキ氷でも喰いにいこうぜィ」

チャイナを誘った。 特に理由はない、ただ暑いからなんとなく冷たいものが食べたかった、ただそれだけ。

「…は?」

俺からの誘いが余程意外だったのかチャイナの目が丸く見開いた。 が、すぐに先程と同じくこちらを伺うような顔つきになる。

「忙しいんならいいんでさァ、行くんなら早く土方が来る前に…」
「行くアル!!」

先程までのさも鬱陶しいものを見るような顔から一転、ぱぁっとチャイナの顔が輝くのが丸分りだ。 なにこれ、食いつきすぎじゃね?カキ氷そんなに喰いたかったのかよ。それはそれでなんかムカつく。
…まぁこれはこれでよし。


「…ずいぶん現金じゃねぇかよ」

そうしてかぶき町の二人並んで歩いていた。 いつも顔を合わせる割にはこんな大人しく並んで歩くのは初めての事だった。 本人が言うのだから間違いない。 そして違和感ありまくりだ、それも本人がいうのだから間違いない。
隣をてくてくと歩くチャイナは思ったより小さくて、白かった。いつもこんな風に大人しくしていればそれなりなんじゃないだろうか。 チラリと横をみてそんなことをふと思ってしまったのは今日が暑いからと言うことにしておきたい。 そんな俺の視線に気づいているのか気づいていないのか、チャイナはそのままこちらを見ずに話を続けた。

「喰えるときに喰っとかないと人間ダメアル」
「…酢昆布に釣られて誘拐されないように気をつけなせぇよ」

まぁ無縁の話だろうが、俺は善良な警官なので警告してやる。 しかし気づけば奴はスキップを踏みながら数歩先に行ってしまっていた。
シカトですか。 自分の話をまともに聞くような相手ではなかったから別にイラつくこともない。いつものことだ。
俺は俺のペースで良かったのかもしれないけど仕方なく少し早歩きしてチャイナに追いつくとあるものが無いことに気づいた。

「チャイナ。今日傘は?」

今日は傘をもっていなかった。 俺の記憶が正しければ大体こいつは傘を持ち歩いていた。夜兎族は陽に弱いとかなんとか。

「今日は曇りだから要らないアル。たまには手ぶらも楽でいいヨ」
「曇りどうこうじゃなくて雨が降りそうなんだけど、雨の時に傘持ってないってありえなくね?」
「うっさいネ。丁度帰るところをオマエに邪魔されたアル。仕方ないからクリームあんみつで手を打つネ」
「おいおーいお嬢さん、駄菓子屋にはクリームあんみつは売ってねーよ」
「私はクリームあんみつがいいネ。甘味処にいけば両方あるからお互い幸せアル〜」
「別にお前が幸せになる必要ないんだけど」
「えー…今日はあんみつ食べたいネ」

いつもなら突っかかってくる奴がしおらしくそんな事を言う。その言い方がちょっと可愛いいなんて思ってしまったのも暑さのせいにしておこう。
なんで。 腹にはいりゃなんでもいいんじゃねぇのかよこの底なし胃袋は。しかもさっきまでかき氷でウキウキしてたじゃねぇか。なんかむかつく。
何がクリームあんみつだよ。夏はかき氷だろ。そこは譲れない。絶対に。

「おい、道が違うんじゃぁねーかィ」

俺はかき氷が喰いたいんだ。 やはりここは無理やりにでも方向転換。駄菓子屋に連れていくべきだろう。ちょっと可愛い素振りなんかに俺は騙されていない。
ずいぶん先に行ってしまったチャイナを呼ぶが全くの無反応。自然と舌が鳴り、追いかけるように走る。
暑いから走りたくねーんだけど。

「チャイナ俺は駄菓子屋に行くっつってんだろィ」

彼女の腕を掴んだ。先程も思ったけど掴んでみればやっぱり細い腕。見た目どおりといったところか。普段はあんなんだけど体は少女そのものだ。 そんな事に少し感心している俺をよそにふり返った奴は不満が顔から溢れていた。

「うるさい男アルなー、私はあんみつ食べたいネ」
「誰の金で喰うつもりでィ、俺が駄菓子屋っつたら駄菓子屋。大人しく付いてきやがれ」
「うううう…いたいけな少女を金でどうこうしようなんて怖いアルなーみなさんーここにロリコン警官がいますアルー」
「いたいけな少女はそんなことは言わねぇよ」

棒読みのチャイナの頭をグーで殴った。

「いってーナ!!オイ!何するネ」
「じゃぁ、俺は駄菓子屋に行くぜぃ。てめえは喰えないあんみつを指しゃぶってみてな」

これ以上コイツの好きにさせるのは俺として全く面白くないので強行突破。駄菓子屋に向かうことにする。
気付けば真っ暗な空が目の前に広がっていた。これは確実に黒い雲の下は大雨だ。ちょっとダラダラしすぎた事を後悔するが起きてしまった事は仕方ない。 それでもなるべく早く駄菓子屋に着くように少し足を速めながら歩き始めると後ろからチャイナがパタパタと駆け寄ってくる。 その素振りが子犬みたいで首輪でも付けたら面白そうだ、なんてことは全く思っていない。

「ちょ!待てヨ、私も付いて行ってあげるネ」

****
「オマエもたまには良いヤツアルな」
「たまには、は余計でィ。俺はいつでも善良なドSでさァ」

先程まであんみつとうるさかった奴は今ではすっかり大人しい。何であんみつとか言ってたんだ、テレビの影響?そもそもこいつは酢昆布娘じゃなかったのかよ。

「ドSな奴は善良とは言わないアル。それよりもかき氷にしてやったんだから酢昆布もセットにするヨロシ」

前言撤回やっぱり酢昆布娘だ。分かりやすいヤツ。つか酢昆布とかき氷の組み合わせって聞いただけでも腹壊しそー。コイツ馬鹿だ馬鹿。

「今日一日ご主人様って呼んでくれるなら考えてやらァ、あ首輪もつけてな」
「ぶッッ!お前アホじゃネ?馬鹿じゃなネ?恥ずかしくないのかヨ」
「全然」
「このドSが」

人からはドSだ言われるがドSの定義ってなんだろう。自分はただ人をいじめるのが好きなだけだ、そしてその反応を見るのが面白い…ってアレただの性格悪い奴じゃね?

「それよりも空見ろよ。雨降りそうだから急ぐぜィ」

と言った瞬間頬に冷たいものが落ちる。

「あ…」

遅かったか。 と言う間もなく雨の粒は大きくなり、勢いを増す。 何か建物でもあればそこに入ることもできるが、不運な事にこの河原沿いの道には何もなかった。これで傘もないとくるもんだから全くついていない。
そうこうしているうちに雨はバケツをひっくり返したような激しさになり、いまさら雨宿りしても意味ないのではないかと思うくらいに全身ずぶ濡れ状態になっていた。
そう思いながらも暫く走ってるとと小さな公園があった。幸い雨を凌ぐことができそうな遊具もありそこに駆け込むように入る。

「ひどい目にあったアル」
「全くだ、てめえ今日に限って傘持ってねえなんてマジありえねー」
「そもそもお前が柄にもない事するからこんな事になるネ」

公園にあった半球型の滑り台が丁度中が空洞でかまくらのようになっていて、雨宿りに丁度良かった。中は意外と広く何もない空間だからなのか少し声をだすと反響するように声が響いた。そこに少し距離をもって座るとコンクリートの冷たさが直に伝わってくる。

「てめえには言われたくねぇよ」

雨に濡れ重くなった隊服の上着を脱ぎ軽く絞ると大量の雨水が滴り落ちた。下も同様に脱いでしまいたかったがやめておいた。 ふとチャイナを見るとあたりまえだが俺と同じく相当濡れている。 あれだけの雨だったら当然なんだろうけど。だけど自分より薄着な為に相当ヤバイことになってる。 スリット入りのチャイナ服がぺったり体に張り付いて幼いながらも体のラインがくっきりと映し出されている有り様。 果たしてこのまま凝視していていいものなのだろうか。いくらチャイナでもエロくね?胸ぺったんこだけど…ってあれ?あれ?! おいおいやばいんじゃないのか?!

「うぉぉぉ〜すげーなオイ。こんなに絞れるネ」

ここにいる俺を無視してチャイナ服を絞り始めたのだが、裾を結構際どいところまで捲りあげていて相当ヤバい。 目の前のがチャイナだからといってこれは絶対マズイ。いろいろマズイ。 こいつには俺が見えていないのか。俺には色々と丸見えなんですが。それとも俺が男じゃないとでも思っているのだろうか。ここはてめーの家じゃねーんだぞ。 ってか万事屋でもこんな調子なのだろうか。だとしたらあのメガネには可哀そうだ、同情する。 旦那もなにやってんだ。
いや、そうじゃないそうじゃない。 恥じらいを持て、恥じらいを。

→【こんな馬鹿にはお仕置だ
→【仕方ないから後ろ向いてやるか
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