Lily Bell > 作品一覧

01 はじめての


今日は天気も良くて洗濯物が良く乾くと言いながら新八は張り切って洗濯機を回し、娘のバタバタと出かける準備をする音をBGMに俺はジャンプを読みながら珈琲を啜り結野アナの天気予報が始まるのを待つ。
なんて日常的な家族の朝の光景。
その娘は着ていく服が決まらないらしくて何度も同じような服を着たり脱いだりを繰り返し、なんでウチにはおっきい鏡が無いアルかなんて文句を言う。
つーか、それ全部同じじゃね?なんて突っ込みを入れようもんならぶっ飛ばされてしまうので見ないフリをしておくのが一番。更に何処に行くのかなんて聞こうものなら暫くは口を聞いてもらえない。
思春期の娘を持つ父とは大変なのだ。

「ねー新八、どれが良いアルか?」
「どれでも変わりは無いように思うけど…それより神楽ちゃん今日は何処いくの?」

っておいィィィ!
新八おめえはバカですかッ、俺がジャンプ読むフリしながら触れないようにしているこの苦労は何なんだよ。珈琲なんて全ッ然飲みたくねーのに!アホだアホ、ぶっ飛ばされも俺知らね、全然関係ねーし。

「ね、銀さん」

って俺に振るなァァァッ!
最悪だ、コイツアホな上に最悪だ。今の神楽の服みたらわかるだろうがよ、いつも着ないよーなスリット入りだぜ、たまに着たかと思うと下にはレギンスかズボン、それも今日はないんだぜ、つまりは生足だ生足。ガキの生足なんて誰が喜ぶんだ、誰に見せるんだ。
極めつけはテーブルに転がる小さい筒状のモノ。
唇がカサカサするアル、なんて言われて無理矢理買わされたリップクリーム。しかもただのリップじゃない、色つきだ色つき、ほんのーりピンク色だっつーの!カサカサだけだったらその辺の薬用でいいだろ、つかカサカサだなんて嘘だよな?めっちゃ潤ってるじゃねーかよ。
誰に見せるんだ、誰にその唇を―…。

「つーか、んな奴俺が八つ裂きにしてくれるわッッッ!なぁ新八ィィィ!?」
「ぎ、銀さん?!」

なにびっくりしちゃってんの、てめえが振ってきたんだろうがよ。今更無関係ですーとかねぇから。

「全く朝からうるさいアルな…」

服はスリット生足に決まったらしく、お次は寝癖でボサボサの髪の毛を櫛で梳かし始めた。いつもだったらそのまんまてきとーにまとめてボンボリつけておしまいだよなーなんて突っ込みはもう必要ないのかもしれない。だけど言いたい、言いたいんだってば!

「お、おー神楽ァ、今日はやけに気合入れてるじゃねーかァ?どこに行くんだー?」

ちょっと声が上ずったかもしれないけどまぁいいだろう。

「…仕事アル」

そういうと愛用の傘を持ち、ガラガラと玄関を開けて出て行ってしまった。

「…」
「…」

先程までバタバタしていたヤツが居なくなれば随分とこの部屋も静まり返り洗濯機の音とテレビの音が空しく響く。ガランとした感じに包まれる中、気づけば結野アナのコーナーが終わっているではないか。

「なぁ新八、今日って仕事入っていたか?」
「無いですね、っていうかここ暫く仕事なんて全く無いですね」

食器を洗い終えた新八が二人分のお茶を淹れてソファに着く。なんなんだこの空気は、新八てめーだって気になってるんだろうがよ、なんで言わない、なんで俺に言わそうとしてるんだよコノヤロー。

「だよなー。ってか神楽ってバイトでも始めたんだっけ?自分の食費位は自分で稼ごうって気にでもなったんだっけ?」

「…さぁ」
「よし、行くぞ新八」
「ええ」

やっぱり興味津々なんじゃねーか!

**

「やっぱりやめましょうよ、後を着いていくなんて」
「何言ってんだおめーだって行く気満々だったじゃねーかよ」

かぶき町の朝は遅い、まだ人も疎らなこの時間ちょっと足を早めれば日傘をさす我が娘は簡単に見つかった。
そしてそのターゲットを適度な距離を保ちつつ後を追うように歩く男二人。

「そりゃぁ…っていうか見つかったら八つ裂きにされるのはこっちなんじゃ…あの二人がタッグを組ん―…」
「オィィィィッ!その相手がもう誰だか分ってるんですけどーみたいな言い方やめてくんない、まだ誰だか分らねぇよ?!分りたくねぇよッッッ!」
「分ってますよね、絶対分ってますよね…あ、」

公園に入っていった我が娘はベンチに腰を下ろした。大分距離が近くなっていた事に慌ててその辺の茂みに身を隠して様子を伺う。ここまで来たんだ、相手がクソガキだろうがドSだろうがドSだろうが俺は驚かないぞ。どんと来い!

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -