「ある放課後」その後−2P

ウェートレスが注文をとり終えて立ち去ると、竜崎は一転して黙りこくった

いつもの座り方に両腕で脚を抱え、一定のリズムで体を前後に小さく揺らす

この顔だ

僕がいつも何を考えているのか知りたくて堪らないのは

感情を削(ソ)いだひどく大人びた顔で竜崎はテーブルに視線を落としている

減らず口をきいていたかと思えば、その後味を感じさせないほどの寡黙さ

おまえのその空気

「…竜崎」

僕はテーブルに乗り出して右手を差し出した

「…?何です?」

竜崎は僕の行動に息を吹き返し、不思議そうな目を向けた

「顔を見せてくれ…強く殴ったから」

差し出した手の意味を理解しても距離をつめようとせず、竜崎は黙って僕の目を見つめた

その瞬間に僕を囲むありとあらゆる外界の一切は排除され無の世界に貶(オトシメ)められる

深い黒

僕の全てを吸い込むおまえの瞳

「大した事はありません。大丈夫です」

差し出した僕の手に視線を落とし淡々と答える

「僕が納得しないんだ。いいから、傷を見せてくれ」

「……」

強情に粘ると、竜崎はのろのろとそのままの姿勢で背を湾曲させ、テーブルの上に両腕をついた

円形の小さなテーブルの上で僕らの距離が急速に縮まる

僕は竜崎が差し出した顎を掴んで頬を向かせ、親指の腹でそっと撫でた

白く柔らかい肌に指が掠る
鬱血して痛々しい

「痛むだろう」
「慣れていますから」
「慣れている?」
「ええ。夜神君、探偵という仕事には身の危険が付き物ですよ。当然ながら全ての案件が終盤まで頭脳戦で押し通せる訳ではありません。追い詰められれば肉弾戦に持ち込んでくる相手もいます」
「それで実際に痛い思いをした?」
「勿論、何度も。あなたより遥かに体格のいい相手に殴られた時には鼻と顎の骨も折りましたし、………」

間近で言葉を形取る唇がいやに艶かしく映る

したい…

おまえの唇に口付けたい

「 ……という訳で私にはある程度、痛みに対しての免疫があります。ですから、そんな風に自責の念を感じる必要はありませんよ」
「そうか…」

僕は上の空になって途中抜け落ちた竜崎の言葉を振り返りもせずに、生変事をした

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