「ある放課後」その後−1P

僕は違和感の残る、蹴られた右頬を摩りながら竜崎を連れてカフェに向かった

僕のコーヒー代を持った代わりにドーナツを奢(オゴ)れと言う

……
まったく…

さっきの女学生の二人組からの使われ方といい、甘い物の為なら何でもやるのか?

一人悶々と心の中で考えながら僕は、しかしその要求を結局呑んでしまう自分にも呆れていた

よく晴れているし、オープン・テラスに案内され、向かい合って席に着く

しばらくして注文をとりにきたウェートレスと話す竜崎の横顔を、僕はぼんやりと眺めた

嫉妬から出た醜い独りよがりで力任せに殴ってしまった頬は薄く痣(アザ)を刻んでいる

「…」

「……」

「………おい竜崎。何個、ケーキやドーナツを頼むつもりだ」

きつい眼光で貝のように閉じていた口元を割って吐き出すと、竜崎は「おや」と、とぼけたように丸い目で瞬きをしてみせた

「夜神君、聞こえていたんですか」
「聞こえているよ。ひとつじゃ足りないのか?喫茶店で苺タルトを食べて、その後にチョコレート・バーも食べていただろう」

人が上の空だと思って勝手なことを…

「足りません」

竜崎は明確に一言返し、だって、と続けた

「走ってエネルギーを消耗したので、お腹が空いているんです」
「走って?」

僕は竜崎が述べた理由に顔を難しくした

「私、あんなに走ったのは一年ぶりです。夜神君を探すために走ってお腹が空いたんですよ?」
「……何が言いたい」
「夜神君のためにです」

夜神君の"ため"に
夜神君の"せい"で

「夜神君のた」
「わかった、もういい。頼めよ」

…何なんだ、こいつは

僕は何度も繰り返す竜崎の遠回しな嫌味に蓋(フタ)をした

こんな気分にさせられながら、それで竜崎が喜ぶかも知れないのならと頭の片隅で考えている僕も、いよいよ重症だ

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