「Lとニアの会合」−2P
二人が店に入り一番奥の席に着くと、猫背の客の扱いを心得た店員が笑顔で歓迎の意を示した
「こんにちは。ウィンチェスターにお戻りだったんですね」
「ええ、数日前に」
「そうでしたか。お変わりなくお元気そうで。お立ち寄りいただいて嬉しいですよ。御注文はいつもと同じですか?」
「はい、彼にも同じものをお願いします」
Lはニアを横目で捉えながら返事をした
「わかりました。お待ちくださいね」
普段はまるで姿を見せず、いつも季節が変わる頃にひょっこりと現れるこの奇妙な客が必要最低限の接触しか望まないことを、店員はよく把握していた
口にはしないが、客と店の間には暗黙のルールのようなものがあった
客には謎が多かった
いつも、決まった服装でやってくる
若くてその風貌は陰鬱と教養を同時に匂わせるものの、近所に在る全英屈指の男子校や大学に学ぶ学生というわけではない
土地勘があり、また自分たちと同じ完璧な南部訛りの言語で話すものの近所に住んでいる様子もない
決まって連れはなく孤独で、手荷物もなく、履き古して布地の擦り切れた靴を素足に突っかけ、ひょこひょことした足取りでカウンターの前を通り過ぎて歩いていく
そして一番奥の壁際の席に着くと、靴を脱いで膝を抱えるようにして座り、しばらくの間呆然としたようにテーブルを眺めたまま思想にふけった
そして店員の関心が薄れた頃にようやくカウンターの方を見て、アイコンタクトを図ってから声量の振るわない声でこう決まり文句を告げるのだ
「すみません、一番甘いケーキとホットチョコレートをお願いします」
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