「Lとニアの会合」−3P
「寒くありませんか?」
一番奥の席につき、店員の姿が消えると何事もなかったようにLはニアに視線を戻した
「大丈夫です…」
視線を合わせず、ボソボソと気乗りしない様子で呟く
Lは構わないといった調子で、他のテーブルの上には見当たらない、自分の為に特別に置かれているかのように存在する脇のシュガーポットを掴んだ
フタを開け、砂糖の塊をつまんで口に運ぶ
特に会話を始める様子もないLに、ニアは黙り込んで眉間を険しくした
「そういえば、ガラスケースに飾ってあった新作のチョコレート見ました?メロが好きでしょうね。ロジャーには内緒で、買って帰ってあげましょうか。私とあなたが黙っていなくなってしまって、帰ってからの機嫌取りがきっと大変でしょうね…。あのチョコレートをどのくらい買って帰れば許してくれるでしょうか?」
Lは歪(イビツ)な形をした角砂糖をピンと垂直に立てた小指の先に器用に10個ほど積み上げて遊びながら、囁きに近い独り言のように話した
「L、私は…」
「いいんですよ、ニア」
言いかけた上から重ねてきたLに、視線を上げる
「話したくないなら、話さなくてもいい」
砂糖を積み上げながら急に本質を抉(エグ)りにかかったLは、視線を手元から横にずらしてニアを見た
「あなたが手紙のことを私に伏せた時点で、答えは出ているようなものです」
的を突かれ、ニアは不機嫌とも悲壮ともとれる顔で彼を見返した
「母親と行きたいなら、それでいい。あなたには選ぶ権利がある。本来歩むはずだった、肉親との人生を。Lの後継者のことならメロがいる。あの子には不安要素もあるが、その欠陥はマットが補えなくもないと私は思っています」
Lの声は子を諭す親のように、静かで落ち着き払っていた
「…… 私はLです。それ以外の何者でもない。Lの仮面を剥いだ私には、まるで何も残らない。愛された痕跡もなく、何処から来て自分が何者なのかもわからない。叶うことなら、あなたたちには私のようになって欲しくない。Lである私が言うのも変ですが、それが本音です」
その若さにそぐわぬ、長く辛い道のりを歩いて来た老人のような重みのある眼差しでLはニアを見つめた
「……引きとめないんですね」
ニアは呟き、視線を落とした
「ショックですか?」
「いえ、それはありません」
淡々と応じるニアを、Lはしばらく眺めた
「そうですか。私はショックでしたが」
「!」
そんな気配など微塵も感じさせない、しれっとした表情で返してきたLを、ニアは仰ぎ見た
「実を言うと、あなたの母親が現れたところで、あなたがそんな風に迷うとは思いませんでした。
私に事を伏せると思わなかった。競うつもりなどありませんが、私の存在も血筋の前では霞(カス)んでしまうものなのだとわかりました」
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