▼ 俺の信頼に応えないつもりか
旧市街地のひとつで、巨人たちと戦闘になった結果――我が班は壊滅。残りは私ひとりだけとなった。
仲間を食べ終えた五体の巨人が、今度はこちらへ向かって来ようとしている。
これが壁外調査だ。絶望にまみれ、一歩でもしくじれば、死に直結する。
一人の兵士が立体機動装置を故障させ機動力を失い、それを班で助けようとして――あとは総崩れだった。
ああ、逃げなきゃ。私がたったひとりで巨人を相手取るなんて出来ない。
生き残ることを最優先に考えて、震える足で動こうとしたその時。
どこからともなく立体機動装置で風のように飛んできたひとりの兵士が、あっという間に二体の巨人をなぎ倒す。
「あ……」
その光景に目を奪われて、私は立ち尽くした。
「誰が間抜けに突っ立っているのかと思えばお前か、リーベ」
「……兵長」
希望そのものが目の前にやって来て、信じられない思いでいると、さらに驚くようなことを兵長が言った。
「俺は左の二体。お前は右の一体をやれ」
その言葉を理解するのに時間がかかった。
「い、一体を補佐なしでっ? ちょっと待って下さい、無理ですそんなの絶対に! 単独で討伐したことなんて私ないんですよっ」
私が叫べば、背中越しに兵長が振り向く。
「そんなことは知ってる」
「だったら!」
「何を情けねえこと言ってやがる。俺の信頼に応えないつもりか」
その言葉に目を見開く。
信じられない。今、兵長は何て言った?
「何、言って……わかっているんですか、兵長。私が今まで、どれだけあなたに失敗を見せて……迷惑をかけてきた人間か……」
毎日いつも、兵長と関わる度にだって私は何かしらやらかしてきた。それもたくさん、たくさんだ。
兵長の信頼に値するような人間じゃない。
私はその期待に応えられる兵士じゃない。
私なんかを信じるなんて、狂気の沙汰だ。
「ああ、散々な目に遭った」
兵長は鼻で笑いながら、刃を古いものから新しく交換する。
「だが、結果はいつもわからない。――だから俺は出来るだけ悔いのない選択をするようにしている」
力強いまなざしから、私は目を逸らせない。
「やれるな、リーベ」
「兵長……」
どれだけ失敗を重ねても、それでもなお、兵長が私に声をかけてくれることは奇跡みたいで。
その上そんな言葉までもらえるなんて――夢みたいで。
「私……」
ああ、私は、こんな私でも、兵長に認めてもらえていたんだ。
だったら――。
私はこちらへ近づきつつある巨人を見据える。
「……っ」
剣を握る手に力が入る。
ここで失敗すれば間違いなく死ぬ。その現実を前に身体が震えた。
震えは止まらない。
でも、
「兵長が……」
「何だ」
「兵長がいれば、私は何度ドジして失敗したって、命ある限りは挑み続けようと――そんな気持ちになれるんですよ」
あなたがちゃんと、私を見てくれるから。
だから私は何度だって、何にだって立ち向かおう。
そう言えば、兵長はぐしゃりと少し乱暴に私の髪を撫でてくれた。
「悪くない。――向こうは任せた」
「はいっ」
互いに背を向けてから顔を上げ、私は敵を見据える。
巨人の背後に、アンカーを刺すのに丁度良さそうな塔があった。
「――よし」
行ける。
その確信と共に刃を構え、力強く私は飛んだ。
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