▼ いつまで保つか見物だな
「ぐ、ぬ……ううううぅ……!」
現在、私は絶対絶命のピンチに陥っていた。
とはいえ、別に巨人を相手にしているわけではない。扉越しではあるが、私の前にいるのは兵長だ。
「いい加減あきらめろ、リーベ。さっさとやるぞ」
「無理です! 絶対開けませんからね!」
何をしているのかと言えば簡単なことである。毎日のドジが積み重なって、荒れに荒れている私の部屋を片付けるためにやって来た兵長が扉を押し開けようとしているのだ。
最初は鍵を閉めて防衛していたが、相手はすでに鍵を入手済みなのでもうそれには頼れない。
あとはもう自分の腕力勝負だ。兵長は扉にもたれかかっているだけみたいで声も涼しげなのに、私の腕にかかる負荷は尋常ではない。
「俺を相手にいつまで保つか見物だな。言っておくが、俺は大して力を出してねえ」
「ですよね! 私が人類最強に敵うわけ――ちょ、腕が死ぬ! 痛い痛い! 情けをかけようって気にはならないんですか!」
「ならねえ」
「ひどい!」
世界は残酷だ!
「ちょっと待って下さい! 兵士とはいえ私もうら若き乙女です、こんな散らかってる部屋でも見られたら困るものとか色々あるんですよ!」
「うるせえな、開けるぞ」
そこでついに均衡は崩れた。押し開けられて、私は扉から吹っ飛ばされる。勢い余って机の脚に後頭部を強打した。
「あたた……」
頭を押さえながら起き上がった私の目の前にいたのは――きっちりと髪を覆う三角頭巾を身に付け、口元を布で覆い、両手にはハタキを持つお掃除兵長だった。
「汚ねえな。――始めるぞ」
「待った! そこは着替えです! 下着とかあるんですから勝手に漁らないでください!」
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