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彼らの会話-J&M-

「ミカサ! それは俺が運ぶ! お前は休んでろ!」
「大丈夫。肋骨ならもう治っている」
「それでも駄目だっ」
「なぜ?」
「お、俺がやりたいからだ!」
「……そんなに薪運びが好きなら任せよう」
「よし、それでいい」
「じゃあ私はエレンの所へ戻るから――」
「ま、待て!」
「何?」
「いや、その……リーベさんって憲兵団でどうしてるだろうな。ハンジ分隊長曰く約束していた報告書が一向に届いてねえらしいぜ。出された形跡もないってよ。潜入してもうすぐ一週間が経つのに」
「……そう」
「拷問にかけた中央憲兵に訊いてもリーベさんの情報は『憲法団本部へ着いたこと』しか出なかったらしいし……まさか、調査兵団からの伏兵だってバレて……」
「報告書が届かないのは、恐らくそれを書ける状況ではないから。何かあったのかもしれない。――でも、リーベさんなら大丈夫。うまく立ち回っているはず」
「そう思いてえけどよ……兵長も心配してるんだろうな。俺たちの前じゃ様子変わらねえけど多分一人でいる時は――」
「あのチビが一人でどう過ごしていようと興味ない。じゃあ、私は行くから」
「そ、その! ……意外だよな、そう思わねえ?」
「何が?」
「兵長とリーベさんが恋人同士ってことがだ」
「……リーベさんにはもっと相応しい人がいる気がするけれど、性癖の問題なら仕方ないと思う」
「せ、性癖って……。いや、逆だろ。俺が言いたいのは兵長の恋人がリーベさんみたいな普通の人で意外だってことだよ」
「違う」
「は?」
「……正常な人間は調査兵団にいない、と思う。だからリーベさんも、普通とは違うはず」
「……だとしたらお前もその集団の一人だぞ」
「私は何だって構わない。エレンのそばにいられるなら、それで」
「死に急ぎ野郎はほっとけよ。……でも、もしもリーベさんがリヴァイ班に残ってくれたとしたら、兵長に幻滅したんじゃねえかな。あんな風に拷問しているのを知ったりしたら、多分」
「…………」
「リーベさんは優しいし……笑えばほわっとした雰囲気になって……どう考えても暴力とは無縁だろ。そりゃあ調査兵としての強さは知ってるし、実は《硝煙の悪魔》だって教えられたけどな、それでもリーベさんはリーベさんだ。ああいったことはやっぱり――」
「三年前、実習の休憩時間に」
「は? 何だよ急に」
「リーベさんが本を読んでいた」
「本?」
「何を読んでいるのかとアルミンが訊いたら表紙を見せてくれた」
「で、何の本だったんだ?」
「『拷問大全』」
「…………」
「…………」
「…………」
「だから、もしもリヴァイ班に残っていたら、リーベさんも本を片手に参加していたかもしれない」
「…………」
「……わからないけれど」
「……そう、か……」
「…………」
「あ、あー、そろそろ行くか。後でリーブス商会が来るんだとよ」
「わかった」
「――なあ、そういえば……お前らのおっさん、作戦前にちらっとリーベさんのこと話してたよな」
「……ハンネスさん」
「去年に駐屯兵団と調査兵団でやった催し物で会ったんだって? 昔どこかで会ったことがあるような気がするのに思い出せねえとか何とか言ってたが……リーベさんと知り合いだったのか?」
「よくわからない。あの時、アルミンは律儀に聞いていたけれど、私はエレンのことしか考えられなくて……」
「だから死に急ぎ野郎はどうでもいいだろうが」
「……あの人、昔はいつも酔っ払っていたから、単にリーベさんを他の誰かと勘違いして言ったんじゃないかと思う」


(2015/12/12)
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