Novel
彼らの会話-C&H-

「何やってんだよヒストリア。今朝のリヴァイ兵長みたいだぞ」
「……別に何もしてないよ、コニー。そもそも兵長が今朝何してたか知らないし」
「リーベさんを見送った後、今のお前みたいにずーっと窓の外見てた」
「……そんなに心配なら行かせなきゃ良かったのに」
「俺はそこまで心配することじゃねえって思うけどな。何と言っても訓練兵団七不思議の一つ、泣く子も黙る《硝煙の悪魔》! 一発の弾で100人倒した方法、さっきアルミンが教えてくれても俺には全っ然わからなかったけどな! とにかくすげえってことだろ?」
「……そうみたいだね」
「正直、同一人物とは思えねえけどさ。優しくて美味い飯作ってくれるリーベさんと、怖がられるくらいに強くて戦うリーベさん。どっちが本当のリーベさんなんだろうな?」
「……さあ、知らない」
「ヒストリア、お前は心配してるのか?」
「……わからない。だって私、クリスタとは違うから。クリスタなら心配で仕方なかっただろうけれど――」
「はあ? お前はお前だろ? ややこしいこと言うなよな」
「……兵長はリーベさんのこと、心配しているんだろうね。でも、そうは思っていても大事じゃないんだと思う」
「ん? 何でそうなるんだ?」
「だって、本当に大事なら、一緒にいられるようにそばから離さないはずでしょ?」
「いや、大事だから離したんじゃねえの?」
「…………え?」
「だから、大事だから離したんたんじゃねえの?」
「二回言われてもわからないんだけど……」
「ガキだった頃、母ちゃんから聞かせてもらった話があるんだ。ラガコ村の昔話」
「何、急に」
「昔々、二人の女が一人の赤ん坊を村長のところへ連れてやって来た。女は二人とも『自分がこの子の本当の母親です』って一歩も譲らなかった。……片方が間違いなく嘘をついているんだが、これじゃあどっちが本当の母親かわからねえだろ?」
「うん」
「だから村長は『赤ん坊の腕を一本ずつ持て。引き合いに勝った方を母親と認める』って命令した」
「…………で?」
「女たちは言われた通りに赤ん坊の腕を引っぱり始めた。でも、赤ん坊が痛がって泣き出したんだ。すると片方の女が思わず手を離した。これで決着」
「それで終わり?」
「いや、まだ続く。――勝った女は喜んで赤ん坊を連れて行こうとしたけど、村長が止めたんだ。そして言った。『待て。その子は手を離した女のものだ』」
「どうして?」
「『本当の親なら子を思いやるものである。自分の子が痛がって泣いても離さない者がなぜ親であろうか』」
「…………」
「だから引っ張り合いに勝った女は赤ん坊の親ではないと裁かれた。こうして赤ん坊は無事に本物の親に返されたとさ。めでたしめでたし」
「…………」
「だから、大事なら離すことが何よりの愛情と呼べる時もある。俺は難しいことってわかんねえけどさ……それくらいならわかる」
「…………」
「何だよ」
「親が子供を大事にすること、当たり前だって思わない方がいいよ」
「あー、お前は母ちゃんと仲悪かったんだっけ。悪い、忘れてた」
「……いいよ、別に。どうでも」
「ただ、俺が言いたいのはさ――親子でなくたって、関係ないんだ」
「関係ない?」
「ああ。親子でも、友達でも、仲間でも、恋人でも――何でもいい。とにかく相手が大事なら、大事であればあるほど、離れることもあるんじゃねえの? 痛がったり、相手が望んだら尚更だ。どれだけ相手が欲しくても、一緒にいたくても……相手のためにそうするんじゃねえの?」
「…………」
「兵長がリーベさんを憲兵団へ行かせたのも、そう思えばわかる気がする。本当はそばにいて欲しかったかもしれない。一緒にいたかったかもしれない。でも、他ならぬリーベさんが志願してた。だからこそ手を離して自由にさせたんだって」
「…………」
「あのブスが――ユミルがお前から離れたのもそんなことじゃねえかって俺は思うぜ? 自分のためよりお前のために動くヤツだ」
「違う。だって私は、一緒に自分たちのために生きようって言ったのに……そう望んだのに……それなのにユミルはライナーたちを選んだんだよ?」
「あの時は俺もそう思ったけどさ、結局のところはわからねえだろ? だから、あいつとまた会うまではそんな風に思っておけばいいんだよ」
「…………」
「……何だ?」
「ばか……コニーって、本当にばか……」
「何言ってんだよ、俺は天才だぜ? ――あ、俺そろそろ見張りの交代に行かねえと。じゃあな」
「うん。………………今はどうしてるのかな、ユミル。……リーベさんも……そういえば前の壁外調査で巨大樹の森に待機してる時、ナナバさんが言ってたっけ。『あの子は籠の中に閉じ込めちゃいけない鳥みたいなものだよ』って……だから調査兵団も飛び出して行ったのかな……私のやりたいことが見つかったら力になるって言ってくれたけど……リーベさん、帰って来るのかな……」


(2015/10/13)
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