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彼らの会話-E&S-

「ううぅ……リーベさんのご飯が食べたい……」
「サシャ、とっとと皮むき済ませるぞ」
「ひどいですエレン。私はこんなにリーベさんとあのおいしいご飯に想いを馳せているのに……」
「わかったから手を動かせ」
「今頃、憲兵団でどうされているんでしょうか」
「……さあな。転属初日だからまずは内情でも探ってるんじゃないか」
「やっぱり、リーベさんがいないと寂しいです……ご飯を作ってくれなくてもいいから、一緒にいて欲しかったです……きっと兵長の方が寂しく思っているでしょうが」
「兵長はそんな女々しくねえよ」
「あの二人が恋人同士だったこと、エレンは前から知ってました?」
「いや、知らなかった」
「ふっふっふ、壁外調査前にあった借り人競争の時から私は『何かある』と感じてましたよ。エレンは旧本部で気づかなかったんですか? しばらく一緒に過ごしていたんでしょう?」
「旧本部か……」
「恋人同士らしいことはされていませんでした?」
「何だよ、恋人同士らしいことって」
「それはほら…………ハンナとフランツのような」
「……ああ、あのバカ夫婦か」
「…………」
「…………」
「…………」
「……あんな浮かれた関係じゃねえってことだろ」
「あ、でもほら、この隠れ家に来た最初の日、兵長ってば全然ご飯食べなかったじゃないですか。私ははっきり覚えてますよ」
「ヒストリアの身の上話を食わずに聞いてただけじゃねえか?」
「いやいや、あれは絶対にリーベさんの作ったものが食べたかったんだろうなと私は睨んでいます」
「はあ? 何言ってんだ、兵長はそんな子供みたいなこと思わねえよ」
「わかりませんよ、案外――」
「あ、そういえば」
「何ですか?」
「旧本部で、誰が淹れたかわからないお茶を兵長だけがリーベさんだと一発で当てたことがあった」
「それはすごい! まさに愛の力ですね!」
「まだある。他にも思い出した。――リーベさんってさ、洗濯物を干してる時によく歌うんだよ」
「ほほう、そうなんですか。ご機嫌になるんですねえ」
「ああ。鼻歌みたいに。無意識らしいけど」
「ふむふむ」
「すごく……やさしい声なんだ」
「それは私も聞いてみたいですっ」
「で、いつだったかリーベさんからは見えない場所で兵長がそれを聞いてた。何かするついででもなく、耳を傾けてる感じ。それを見たことがあるぞ」
「へえええぇ……! ど、どんな顔してました?」
「表情は変わらないんだけどさ、違うんだよ」
「違うって何がです?」
「様子、というか……雰囲気が――すっげえ幸せそうだった」
「くううううううう。リーベさんさえいれば私の胃袋と兵長の心の安寧は守られるのにいいいいいい」
「――なあ、サシャ」
「ん? 何です?」
「本気で怒ってるリーベさんって見たことあるか?」
「へ? ありませんけど……何ですか急に」
「……昨日倒れた時さ、変なもんが見えたんだよ」
「そういえばご飯を食べて後片付けしている時に倒れていましたね。その時ですか?」
「ああ。あの時、怖いくらいに怒ってるリーベさんが見えたんだ。いや、見えたんじゃなくて、前に見たような気がしたんだ。……誰かを殺しかねない勢いで怒ってたんだよ」
「ふうん? リーベさんがエレンにそんな風に怒ったことがあるんですか?」
「ない。…………その人の髪は腰くらいまであって、リーベさんよりずっと長かったんだが……」
「じゃあきっと人違いでしょう。別人ですよ。――さて、皮むき終わりっ。ちょっと私は他の食糧が無事か確認して来ます」
「は!? わざわざ必要ねえだろ食糧の確認とか!」
「見るだけですよー、じゃあ行ってきまーす!」
「おい、つまみ食いするんじゃねえぞ! ……ったく、こんな時でも食い意地張りやがって……。…………でも、あんなに似てたのにリーベさんじゃないなら、俺は誰を見たんだ? ……しかも何で……そんなものが見えたんだ?」


(2015/08/29)
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