Novel
家族の肖像

「献立はパンと茹でた野菜のサラダ、豆のスープ。あとは、ちょっとだけ干し肉を使おうかな。味付けは何にしよう?」
「ピリッと辛く!」
「……何でも構いません」
「俺は甘辛が良いです」
「私はエレンと同じ」

 コニー、ヒストリア、エレン、ミカサの言葉に私は少し迷ってから提案した。

「じゃあ二種類作るから皆がそれぞれ食べたい味を選べるようにしようか」

 そう決めてから野菜を下準備をコニーとエレン、スープはミカサとヒストリアに任せて私は干し肉を取りに行った。サシャ対策なのか厳重に保管されているらしい。

 途中、兵長とすれ違う。

「にぎやかだな、お前がいるとあいつらは」
「そうですか?」
「ああ、元気だ。――リーベ」
「はい」
「…………何でもねえ」

 一体何だったんだろうと思いながら食材を手に調理場へ戻れば、コニーが何やらぼやいていた。

「俺はとにかくよぉ……『獣の巨人』を殺さねえとな。俺の家族、村ごと巨人に変えちまったのは『さる』だってユミルは言ってたんだろ?」

 獣の巨人? さる?

 首を傾げているとヒストリアがコニーを何やら言い負かしてしまう。
 クリスタと呼ばれていた頃と今の彼女は随分雰囲気が変わったと思っていると、エレンが私に気づいた。

「あ、お帰りなさい」
「うん、ただいま。――『さる』って?」
「ユミルたちが話していたんです。奇妙な巨人のことを」
「俺は見ました。あの、この前リーベさんとトーマさんに話した時には言ってなかったと思うんですけど……」

 エレンの言葉にコニーが話し始めた。

「でかくて……見るからに異様で……巨人って呼ぶより獣みたいで……あんなヤツ見たことねえ……」
「獣の巨人……」

 説明してもらったとはいえ、見てもいない巨人のことを想像するのは難しかった。

「あいつが壁から岩を投げて、ウトガルド城の屋上にいた先輩たちを……」
「……そっか。通常の巨人や奇行種とは異なる上に何らかの能力を有していると思うべきなんだね」

 私の相手は今後、内地の人間になるだろうが知っておくべき情報だろう。
 もしかしたらその獣の巨人もエレンたちのように元は人間なのかもしれないし。

 野菜の皮を剥き、それらを切り終えたコニーが包丁を洗って片付ける。

「俺の父ちゃんも母ちゃんも……サニーもマーティンも……あいつが……」

 拳を握って震える姿に、私はそっと目を逸らす。

「……許せないんだね、コニーは」
「当たり前です。家族をあんな目に遭わせた……絶対に許せねえ……」
「家族……」

 私には縁のない感情だと落ち込めばいいのか開き直るべきか考えていると、ヒストリアがテーブルや食器の準備を始めた。エレンとコニーも慌ててそれを手伝いに行く。
 下準備を終えた野菜を塩で茹でつつ手早く肉に味付けしていれば視線を感じた。ミカサが私を見下ろしていたのだ。

「どうかした?」
「確認して下さい。味付けを」
「え、あ、うん」

 スープ一口分をお皿に入れて、味をみる。

「――おいしいよ。ミカサは料理上手だから三年前から私が教えるようなことはなかったよね」
「私はあの時間が好きでした」
「え?」

 唐突な言葉に私は綺麗な横顔を仰ぐ。

「母やカルラおばさんと料理を作る時間を思い出せたから」
「…………」

 確かミカサは両親を亡くしてからエレンの家族と暮らしていたんだっけ。カルラおばさんとはエレンのお母さんの名前だったはずだ。その人はウォール・マリアの突出区シガンシナが超大型巨人によって陥落した際に死んでしまったと耳にしたことがある。
 エレンは家族だと事あるごとにミカサの口から聞いている。エレンの家族はミカサの家族でもあって、つまり彼女は二度も家族を失っているのだ。

「……家族って、どんなものかな」

 勝手に口を突いて出た言葉に気づいて自分で戸惑った。

 何を言ってるんだろう、私。

 聞き流していいことなのにミカサは少し考えて、

「家族は……大切です。大事なものです。エレンは、六年前の私に言ってくれました。『オレたちの家に帰ろう』と。あの日からずっと、エレンは家族だから……そばにいたいと思うし……そばにいなければならないとも思います」
「…………」
「でも……もしも、家族でなくても、大切。エレンだけではなくアルミンや……仲間も」

 そこでミカサは目を伏せた。

「だからなのかもしれない。ローゼの壁上で、ライナーとベルトルトの首を刎ね損ねたのは」
「え?」

 塩を片付ける手が思わず止まる。

「そうなの?」
「はい」

 意外だと思っているうちに野菜が茹で上がる。
 それを二人で皿に盛り付けて、私が仕上げるとミカサが再び口を開く。

「今後は大丈夫です。もう、機会は逃さない。次こそは必ず」
「……そう」
「リーベさん」
「ん?」

 顔を向けると綺麗な瞳が私を映していた。

「ストヘス区で私は言いました。相手があなたでも勝つ、と」
「うん、私もあの時に言ったけれどミカサが勝つと思うよ」

 そう頷けば、ミカサは言った。

「もしもリーベさんが……エレンを殺そうとするなら、私はあなたを倒す。でも、あなたはそんなことをしないと思う。私も出来るなら、そんなことはしたくない。……そう思っていることを忘れないでいてほしい」

 その言葉に私はゆっくりと訊ねる。

「それは……私のことも、大切だと思ってくれているから?」

 するとミカサは即答した。

「そうです」


(2015/05/17)
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