Novel
すべての答え
たとえ壁の中であっても、人類の敵である巨人はいつ攻めてくるかわからない。その現実は二年前、845年に容赦なく突きつけられた。
しかし四六時中いつだって精神を張り詰めていたら身体が持たない。兵士と言えど、そこは人間だ。
だから、夜はかけがえのない時間だった。陽が落ちると巨人の活動力が落ちるとされているから、眠る前の一時は安らぎに満ちたものになる。
私もすっかり気を抜いて、今日はもう寝るだけだと部屋へ向かっていた。その途中でぺトラとすれ違った。
「良かった、もう大丈夫そうね」
私の顔を一目見て、ぺトラがそう言った。その言葉に私は足を止める。
「え、何が?」
「最近ちょっと塞ぎこんでたみたいだから」
苛々としてミケ分隊長を投げ飛ばした頃のことを言っていることはすぐにわかった。
「ああ、うん。気に障ってたならごめんね」
「気にしないで。誰にだってそんな時はあるし。でも、いつまでもそんな状態じゃ身体にも良くないわよ」
「だね、ありがと。ミケ分隊長を投げたおかげかな。あの日からすっきりして――」
「違うでしょ、リーベ」
やれやれとでもいうように、ぺトラが笑った。
「リヴァイ兵長のおかげでしょ」
一日ずっと一緒にいたってハンジ分隊長から聞いたんだから、と彼女は言う。
その言葉に私が立ち尽くしていると、
「あれ? どうしたの、リーベ?」
「……ううん。何でもないよ、ぺトラ」
「そう?」
じゃあおやすみ、とぺトラは私に告げてどこかへ行ってしまった。
「ええと……」
私はその場から動けずにぺトラの言葉を反芻する。
ああ、そうだ。
確かにぺトラの言う通りだ。やっと、わかった気がする。
私を満たしていた苛々がなくなってすっきりしたのは、ミケ分隊長を投げ飛ばしたからじゃない。
あの日。一日ずっと、兵長の部屋で彼と一緒に過ごしたからだ。
大して言葉を交わさなくたって、同じ空間にいて、時々彼の姿を眺めていた、そんな時間があったからだ。
それまで感情が不安定だったのは、しばらく兵長に会っていなかったから。つまり私は自分自身を制御できていなかった。
あの人がいるから、私はもう大丈夫。
でもそのことを、私は少し勘違いしていた。ちゃんとわかっていなかった。
ただ同じ世界にいるだけじゃなくて――
傍に感じていたい。
見つめていたい。
声が聞きたい。
これが、私の本当の心。
「今のままじゃ、だめだ」
体調管理、精神調整も兵士の仕事の一つだ。強靭な肉体も恐怖に打ち勝つ精神力も必要不可欠。
それに兵長も言っていたじゃないか。「感情を制御しろ。どうせならそれを力に変えてみろ」って。
「兵長、どこにいるかな」
会いに行こう、と私は自分の部屋と反対方向へ歩き出した。私には彼が必要なんだ。
夜はかけがえのない時間だ。今日はもう眠らなければならない。
でも、それと同じくらい、兵長と会うことは大切だと気づいた。
(2013/09/04)