Novel
Der Appetit kommt beim Essen

「おかえり、リーベ」
「ただいま、ぺトラ」

 夜。訓練兵団から調査兵団本部へ戻り、通路を歩いているとぺトラが声をかけてくれた。

「今日も訓練兵のところへ行っていたんでしょ? 大変ね」
「でも、時間にかこつけて色々作れるから嬉しいな。いつもと違うことやってると気分転換になるし」
「好きねえ」
「うん、あと洗濯と掃除も好き。はい、これぺトラにお土産」
「いいの? ありがとう」
「うん、蜂蜜のクッキー」

 受け取った紙袋を見つめて、ぺトラが瞬きする。

「クッキー? よくそんなもの作る許可が下りたわね。娯楽とか嗜好品だと駄目じゃなかったっけ? 炊事実習でしょ?」
「甘いものは脳への刺激となり、その思考を助けるとか何とか云々かんぬん理由をつけたら大丈夫だったの。兵長もキース教官へ一筆添えてくれたし」
「リヴァイ兵長が?」

 ぺトラが目を丸くした。

「うん、じゃあ今から兵長にも持って行くね。また明日、ぺトラ」

 残った紙袋を胸に抱え、私はまた歩き出した。

「ああ、わかった。きっと、兵長が食べたかったのね」

 別れた後の、ぺトラの言葉は私に届かなかった。




「どうだ、実習は」
「とても楽しいですよ」

 104期生――将来有望な年下の兵士たちと関わるのは日々の訓練と同じくらいに有意義な時間だった。
 淹れたお茶を丁寧に置き、蜂蜜クッキーをお皿に出しながら私は兵長に話す。

「大勢でにぎやかに作るのも良いですね。単に教えるだけではなくて、私の知らない調理作法も逆に教えられたりして勉強になります」
「そうか」

 兵長がクッキーに手を伸ばし、口へ運ぶ。

「お味はいかがですか?」
「……悪くない」

 そう言ってもらえるのは嬉しい。まあ、一定のペースでお皿に手が伸ばされている様子を見るだけでも充分だけれど。

 そこで私は兵長に訊ねたかったことを思い出した。

「あの、毎日じゃないとはいえ私のご飯とかおやつ、そろそろ飽きてきません? だったら控えますから言って下さいね」
「それはない」
「え?」

 即答された言葉にきょとんとする。

 兵長はまた一枚、クッキーを手に取りながら言った。

「飽きることはないと言ったんだ。だから作ったら毎回持って来い」
「兵長……」

 じわじわと、聞いた言葉が胸に沁み渡る。

 ああ、何だか――とても、嬉しい。

 無意識に頬が緩んで、私は頷く。

「はい、わかりました」

 炊事実習のある日の夜に過ごす、兵長の部屋。

 それがいつからか、私にとって胸が弾む時間になりつつあった。

 そう思うのは自分だけでなければいいなと考えながら、私もクッキーへ手を伸ばす。

 やさしく甘い、味がした。

Der Appetit kommt beim Essen
…手に入るともっと欲しくなる
(2013/08/31)
(2013/10/16)
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