It's time after time -849-
 あれから何年も経った。
 訓練兵団を無事に卒業し、調査兵として数年を過ごしていた849年のある日。

「いい天気だなあ……」

 今日はペトラとオルオさんと一緒にトロスト区へ買い物に来ていた。兵長から頼まれた掃除道具一式のお使いだ。
 購入したほとんどをオルオさんに持ってもらって申し訳ないと思っていたら、ペトラが口を開いた。

「ねえ、リーベの――」

 その時、ウォール・ローゼへ巨人が接近してきたのか、何台もの壁上固定砲台が火を噴いた轟音が地上まで届いた。ペトラの声が聞こえなくなる。

「ごめん、何て言ったの? 聞こえなかった」
「随分と派手に撃ったわね。そんなに巨人が群がってるのかしら。――ええと、さっきは『リーベの初恋はいつ?』って訊いたの」
「初恋?」

 私が繰り返せばペトラが頷く。
 ちなみに大量の掃除道具を背負ったオルオさんは遙か後方にいて、この会話に参加していない。

「そうよ、初恋。何か思い出ある?」
「好きな人の名前を書いたりとか?」

 自分の経験を例に挙げればペトラは顔を輝かせた。

「そうそう! で、リーベはいつだった?」
「ええと……」

 軽い荷物を抱え直しながら、私は考えて答えた。

「十二歳の時、かな。訓練兵になったばかりの頃」
「同期の人?」
「ううん、違うよ」
「まさか教官? 道ならぬ恋ね」
「違うってば。ペトラも聞いたことのある名前だと思うけれど――」

 そこでまた壁上固定砲台が火を噴いて、私の声は完全にかき消される。

「ごめん、全然聞こえなかった」
「いいよ、気にしないで」
「ね、どんな人?」

 興味津々といった表情をペトラから向けられる。

「うーん……」

 私はどう説明したものかと少し考えてから答えた。

「意地悪だけど優しくて、才能と勇気がある強い人だった」




 調査兵団本部へ帰ると、通路の向こうからゲルガーさんにどやされた。

「リーベ! もう班訓練の時間だぞ! 遅れたらただじゃおかねえからな!」
「はーい! すぐ行きまーす! ――ごめんね、あとはよろしく」

 私は持っていた荷物をペトラとオルオさんに預ける。

「ううん、私たちが付き合わせちゃったし」
「リヴァイ兵長には俺がちゃーんと届けてやる」
「あんた、何でそんな偉そうなの?」
「何だよ、悪いか」
「荷物持ちには感謝するけど顔と口調と態度がちょっと……」

 二人のやり取りに私は微笑んで、自分の立体機動装置を取りに行ってから木々の並ぶ訓練場へ向かう。

 順番に装置を身につけながら、想う。

 アンヘル。

『お前が未来の時代を生きられるようにしてみせるから』

 あなたがいたから、私はこの時代を生きようと思えた。

『断言してやるよ。いつか「生まれた時代に生きて良かった」って、そう思える』

 帰りたくなかった私を帰してくれたから、この時代に生きる喜びも見つけられた。

『人類は壁の外へ行ける。いつか、絶対に』

 四年前、超大型巨人にウォール・マリアが破られてシガンシナ区は陥落してしまったけれど、いつか必ず奪還してみせるから。

 あなたの作った、この立体機動装置で。

「…………よし」

 準備体操を終え、レバーを操作してアンカーを出すと同時にガスを吹かせる。ワイヤーが高速で回収され、一気に身体が上昇した。

 ありがとう、アンヘル。

 私はこの時代を生きるよ。


黎明の時代 了
(2015/09/21)
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