「おおーい、『発明王』! 兵団から新しい武具の発注だ! 大砲を十門!」
「用途は?」
「は?」
「だから、何に使うんだって聞いたんだよ」
俺は新しい武具の図面を書き直す手を止めて、発注書を持って来た男を見た。身なりからして兵団を牛耳るお偉い役人だ。まずは取引相手である工房長に交渉してからわざわざここまで俺に命じに来たのだろう。ご苦労なことだ。
「巨人に使うのか? どんな攻撃があいつらに効果的だとか、弱点もまだわからないのに? それともデカくなりすぎた貴族屋敷の解体に使うのか? 大砲にも使い道ってものが色々あるだろ? ただ単に作ればいいわけじゃないんだ」
「た、大砲は大砲だ!」
「それじゃ駄目だ」
俺はぼさぼさになった髪をかき上げる。最近ずっと工房に籠もりっぱなしだから同僚からは青瓢箪と揶揄されるようになってしまったが、だからって弱々しい身体をしてるわけじゃない。職人は身体が資本だ。倒れてなんかいられるか。
男が口を開こうとして、
「まあまあ落ち着いて下さいよ」
「ゼノフォン? 何でお前が出てくるんだ」
「心外ですね。私の専門は火薬と爆発物ですよ?」
「大砲くらい、俺だって作れる」
そんなやり取りをしている間に男は発注書を置いて出て行ってしまった。
「……ったく」
この前、十八歳になった。『発明王』と呼ばれる評判も健在。
だが相変わらずだ。作れと言われたものだけを作る仕事っぷりは。
でも、時間が流れるのも悪いことばかりじゃない。最近はソルムとマリアが無事に婚約したし。
そんな風に言い聞かせながら窓の外を見ると、嫌でも視界に入るのは50mにも及ぶ壁だ。まだまだ遠い、見果てぬ世界がその先に広がっている。
「…………」
ふと思い出すのは二年も昔のこと。
あいつはどうしているかな。
知る術なんて、ない。
だから信じてる。
あいつが強く生きていること。
未来がそう悪くない時代になっていること。
そのために――これから力を尽くすんだ。
「……よし」
顔を上げて、壁よりも上にある空を見る。綺麗な青だった。
リーベ。
俺はこの時代を生きるよ。
(2015/09/21)
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