私には見えない。

朝。気怠い朝6時、私は出勤していた。
いやいやながら、人が足りないからと懇願されて入った朝6時からのシフトにも割と慣れてきた。しかし眠いものは眠い。
眠いから、モチベーションなどある訳もなく、折しも外は大雨。入れ替わりにシフトから上がったのは良いが、原付き通勤で帰れない夜勤の人と事務所で取り留めの無い話をしていた。
私「仕事戻らんと怒られるぅ…。でもKさんの話めっちゃ気になる。」
K「この時間お客さん少ないからまだ良いんじゃない?」
M「いやでも、Tさんレジ締めしてるから戻らんと…」
などと話していると
「ひ…っ!」
とMさんが突然驚愕の表情を浮かべ、数秒硬直した。手に持ったハンカチを手遊びにしていた、その体勢のままで。
私「な、なに?」
K「あー…」
Kさん、振り向くが無反応。もういないのかもしれない。
私は黒い悪魔(ゴキブリ)か、考えた。しかしあいつにしては反応が違う。普通は硬直しないだろう。せいぜい叫ぶくらいだ。と思いつつも、ゆっくり振り向いた。何もいない。見回しても、何もいない。


私「え? え? マジ何なんですか? Gじゃないんですか?」
M「いや、今…制服の…男の人がいた」
私「えっ!? どこに」
M「制服着替えるとこ」
事務所には、小さな着替える場所がある。アコーディオンカーテンで仕切られているが、だいたいいつも開いている。皆、Tシャツの上から制服を着るから必要ないのだ。
位置的にはこんな感じ。

ピンクが私たち、緑が謎の制服の男だ。
私「あそこ? うそ、まだいる?」
M「もういない」
私「じゃあいいや」
私は男がいたらしき場所を見る。前述の通り誰も使わないので、小さな倉庫の様になっている。男が立っていたらしい場所には、大きなポップやそういったものが乱雑に積み重なっていた。
私「まぁ…わかってたけど人が立てる訳ないですね」
M「っていうか浮いてたし」
私「浮いてたんですか!?」
K「誰だったー? 制服ならここの人やろ?」
M「下向いてて顔は見えなかったんよね…」
K「なんで見らんとw」
M「わざわざ見らんよ! 生霊っぽかったけどねぇ」
私「…生霊の方がヤバいって聞きますけど」
K「どうだろうねー」
私「っつか結構平気そうですね…もしかして『見える人』ですか」
K「うん。私もMさんも見えるよ」
私「マジか…私見えないんですよね」
K「っていうか疲れてるんじゃない、Mさん? 低級なのが見えるってちょっと…」
M「あー最近ちょっとねー」
そこかよ。つーかMさんは常に多忙で疲れてるイメージしかない…。
M「ねぇ、さっきの生霊ってUさん(夕勤の新人)だったりしてwww」
K「あはははwww Tに虐げられてるからwwwww」
私「いや有り得なくもないですけど、どんだけ恨みあるんですかw」
K「洒落ならんくない?」
私「ああ、うん…割と洒落にならないかもしれない」
まぁ、私は見えなかったのですけど。見えたとしても位置的に見られなかったですけど。
やっぱり幽霊っているのかもしれない…と思った日でした。


当店には男女ひとりずつ幽霊がいて、女性の方は事務室を覗いてくるらしい。
見えなくて良かった。







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