「おい、小来さん、生きてるか?」
「生きてない」
「生きてんじゃねぇか」
 彼女の頭をわしづかみ、地面に押さえつけてやる代わりに乱暴に撫でた。むぎゅぎゅぎゅきゅきゅう、と鳴く。
「死なないよ。君は。人はそんな簡単に死なせてもらえない」
 僕たちは生殺しのような人生を送っている。死ねない、だけど、死ねないことは、生きるよりも辛い。頬をこすってみると、ねっとりとした液体がごっそりと伸びて手の甲に絡んだ。僕はその血を見る。
 赤。
 橙に近い黒い赤。
 なんだろうな。
 今日は曇っていたし、今ひとつよくわからない。
 鼻を近づけてみるとやはり、鼻の奥を強く打ち付けた時にする、生臭く錆びたにおいがした。
「大丈夫か?」
 小来さんの体を人命救助用人形を相手にする気持ちで抱き起こし、顔面から、首から、腕から、手のひらでくまなく押さえるようにして点検する。そんな神経質じみた僕の行為に不思議がるでもなく、彼女はほらほら、と手首を突き出して来た。白かった手首は傷口が開き、褐色の液体でまだら模様になっていた。
「きれいでしょ、ね、鮮やかな赤で、わくわくする」
「鮮やかな赤?」
 心臓が飛び跳ね、手のひらや脇から嫌な汗が噴き出す。
 ああ、やっぱり。やっぱり血は好きじゃない。
 何の皮肉だろうか、結局僕は血で気付くのだ。
「ちょっとごめん」
 僕は彼女の手首を引き寄せ、鼻を動かし、舌で舐めた。その味と濃度を忘れないうちに、自分の手の甲も舐める。ほとんど同じくらい鉄錆臭く、濃い味がした。
「う、な、なに? なになになに?」
 見せたがりの小来さんに驚かれるほどのことをしているらしい。しかしそれは僕にとっては些細なことで、懸案事項じゃなかった。
「小来さん、僕の眼鏡探してくれるかな? 自分がぶっ壊れるってどういうことか、教えてあげる」
 血を舐めたことで僕が彼女の苦しみを認めたと勘違いしたのか、小来さんが抱きついて来る。首筋に頬ずりする彼女をメリメリと木の皮をはぐように引きはがし、
「行ってこい。褒美はやる」
 取りあえず彼方を指さした。その方向に眼鏡が落ちているかどうかは知らないが、「わかった!」という返事が嬉しそうなので、僕は気が重くなった。
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