過去原稿 | ナノ


2.  



 「行ってきまーす。」
忙しなく家事を続けているお母さんに届くように、玄関からそう声を掛ける。恐らくリビングに居るのであろうお母さんは、行ってらっしゃい、とそう返した。
 通学路で会った、友達の一人である雪の「誕生日おめでとー」という台詞に、「ありがとう」と返してから、普段通りの雑談。でも、そんな中でも私の視線はキョロキョロと辺りを見回していて。「どうしたの?」という、隣を歩く雪の至極当り前な質問には、濁すような曖昧な答えをした。
 そのまま歩いていると、後ろから男子の声が聞こえて。
「いや、だから啓はさっ」
「何だよー。」
“啓”
その名前に、思わず肩を跳ねらせる。雪は道端にいる猫に気を取られていたらしく、気付いていない。思わず安堵の溜め息を溢した。
啓、は。
私の幼馴染みであり、想い人だ。
 私は彼に意識が行きつつも、少しでも気を紛らわす為に雪に何気無い話を持ち掛ける。雪は、私が突然振った話題にも気にすることなく乗ってくれた。私達よりも歩く速度が速い啓達は、私達の横を通り過ぎて行く。
啓の背中を、思わず目で追う。小さい頃は同じくらいの背丈だった啓は、難無く私なんて越してしまっていて。いつの間にか広くなった背中、骨ばった手、私よりも明らかにごつごつとした体つき。胸がチクリと、痛んだ気がした。
表情に出てしまっていたのだろうか、雪が心配そうに私の顔を見てくる。そんな雪に軽く笑いながらどうしたの、と何でもない風を装う。
好きだ。告白をして、断られてしまった今でも。啓が、好き。そんな想いを胸の奥深くに押し込んでから、もう結構な距離を置いて前に行ってしまった啓の背中に、もう一度目をやる。
 ねぇ、覚えてる?啓。私、今日誕生日なんだよ。
声には出さず、そう背中に訴える。当然、啓はそんな私の声に気づくはずもなく、ただ友達と談笑していて。

[ prev | index | next ]


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -